TT

指名手配 ホワイティー容疑者を捕まえろのTTのレビュー・感想・評価

3.5
『ブラック・スキャンダル』でジョニー・デップが演じていた大物ギャング、ジェームズ・“ホワイティ”・バルジャーが逮捕された後に行われた裁判の顛末を描いたドキュメンタリー。

ボストン南部(サウシー)を牛耳っていたバルジャーは、同郷のFBI捜査官ジョン・コノリーから情報提供者になる見返りとして自分を逮捕しないという密約を交わしたことによって、20年間の間に麻薬・恐喝・殺人とあらゆる犯罪に手を染めた。『ブラックスキャンダル』は、逃亡生活を送っていたバルジャーが逮捕されたところで幕を閉じる。しかし、現実は彼を逮捕して一件落着とはいかなかった。

裁判が始まるとバルジャーは、殺人を除く全ての犯罪を認めるが、FBIの情報提供者であったことを頑なに否定した。バルジャーにとってFBIとの関係は“協定”なのであって、警察のイヌだったのを認めることは、彼の中にあるギャングとしてのプライドをズタズタにすることでもあった。

そして、検事側はバルジャーが提供者であるのを否定してしまうと、彼の情報によって検挙した事件を再捜査しなければならなくなるため、彼が提供者だと言う。しかし、検察はその発言に反して、裁判ではバルジャーが情報提供者だったことについて深く追求しない。

なぜ、検察がそんな矛盾した行動を取ったかというと、バルジャーはコノリー以外にも、連邦検事だったJ・T・オサリヴァンとも同じような密約をしていたからだ。イタリアンマフィアのボス・ディアンジェロの裁判を担当したオサリヴァンは、バルジャーにディアンジェロの仲間から命を守ってもらう代わりに、起訴しないと約束した。身内が犯罪者だと面子が立たない検察は、有罪に持ちこもうとしながらも、責任を回避しようとする。

このような責任逃れは、FBIやその上にいる司法省にも挙げられる。FBI側がバルジャーの弁護士に提出した資料が改ざんされたものであるというのが本作によって明らかになる。

情報提供者だったことを認めないバルジャー、保身を守ろうとする検察やFBI。誰も責任を負おうとしない裁判が展開される中、それを冷ややかな目で見ていた人たちがいた。それは被害者たちだ。

バルジャーによる犯罪の被害に遭った人たちの中には、ギャングと一切関わりのない一般人も多くいた。バルジャーに自分の酒屋を奪われた男が、証言台で思いの丈をぶちまけられると喜んでいた矢先、謎の死を遂げる。その場面は、ドキュメンタリーならではの“偶然撮れてしまった”衝撃があり、本作一番のハイライトだ。

バルジャーに終身刑が確定したとしても、被害者たちに平穏は戻ってこない。バルジャーを野放しにし、犯罪を助長させた司法側は、過ちを認めていないし、一部の人間による暴走で片付けたからだ。夫を殺された未亡人は報道陣に「私の大切な人は殺されたのに、バルジャーを放っておいた人たちは目を背け続けてる」と叫ぶのだった。

なぜFBIがイタリアンマフィア摘発に力を入れていたのかや、バルジャーが自分の恋人殺害したことなど『ブラック・スキャンダル』では描かれなかった事柄も補完できるので、事件の背景を知るには最適な作品だった。
TT

TT