Arata

キース・リチャーズ:アンダー・ザ・インフルエンスのArataのレビュー・感想・評価

4.4
ローリングストーンズ好きの方とお話しをしていて、このドキュメンタリーを思い出し鑑賞。


なお本レビューは、文章の読み易さを考慮し、敬称略にて書いてあるので悪しからず。



【あらすじ】
ローリングストーンズのギタリスト、キースリチャーズ2015年のソロアルバム制作時の密着映像と、それまでの半生の映像などを併せたドキュメンタリー映画。


スティーブジョーダン、トムウェイツなどがインタビューに答え、レコーディングの裏話や、キースリチャーズの人となりについても語っている。

またキースリチャーズご本人へのインタビューでは、作曲方法やロックンロールとロックの違いなどに加えて、人間社会においての音楽の重要性や、更には人生哲学などについても語っている。



【感想など】
密着映像や過去の映像を織り交ぜながら、これまでとこれからについて語っている。

しかしながらこのあたりの情報は、キースリチャーズクラスの超有名人ともなれば、何かしらで聞きかじったエピソードも多々あり、本作の意義としては若干の物足りなさを感じる。

更に、公開から数年経った現在では、お酒を飲む事をやめたとも聞いており、その他いくつかアップデートが必要な感もある。

とは言え、キースリチャーズ単体にスポットをあてた唯一の映画なので、この一本を見れば御大の事を大まかにだが知る事が出来ると言う意味では、どちらかと言えば広く開かれた映画であると思う。

後ろ姿の描写が何度かあり、そのどれもが印象的だった。


この映画の翌年、2016年リリースのローリングストーンズのアルバムタイトルにもなっている『ブルーアンドロンサム』と言う曲が、オリジナルのリトルウォルターバージョンでかかっている。


エルヴィスプレスリー、リトルリチャード、
チャックベリー、ハウリンウルフ、マディウォーターズ、ハンクウィリアムス、ボブマーリー、ジミークリフなど、音楽史に欠かせない人物との出会いや、受けた影響などが簡潔にまとまっている。



特に、ジャズやブルースへの愛情は、「水素爆弾より重要」とおっしゃっている場面からもしっかりと受け取れる。


レコード工場のシーン、ブルーノートのレーベルは一発で分かるデザインだと再認識。


6人目のストーンズと言われるイアンスチュワートに、教えてもらったと言うピアノ演奏。
たっぷりフルコーラスで聴きたい。


カントリーのミュージシャンは、ロックミュージシャンも顔負けの悪い連中だと話しているが、ハンクウィリアムスの伝記映画を見た時の事を思い出しながら、本当にその通りだなと思った。



海辺を歩く若かりしきキースリチャーズのファッションが、完全に仮面ライダーの本郷猛。


ワンプラスワンや、ヘイルヘイルロックンロールなど、過去の映像作品などが少しずつ流れる事で、インタビュー内容をより鮮明にしてくれる。


チャックベリーのヘイルヘイルロックンロールは、以前に何度も観ているのだが、ここで語られているものよりももっと大変で、制作にあたってそれはそれは難儀した事と感じる。
どうやらサブスク関係では、見る事が出来ない様なのが残念。
間違い無く、チャックベリーのベストアクト。
未見の方は、こちらも強くお勧めさせていただく。


マディウォーターズとの代表曲“マニッシュボーイ”のセッションも、この上なく素晴らしい。


シカゴでのエピソードを語るシーン、『ウィリーディクソンに誘われて、マディウォーターズと飲んで、起きたらハウリンウルフの家』と言う話は、ブルースファンなら分かるオールスターの大集結で、まさに夢の様な出来事(笑)
「『孫正義会長に誘われて、大谷翔平選手と飲んで、起きたらタモリさんの家だった』と言う程にすごい!」と言えば、ある程度の人にも届くだろうか。。


「歳をとりたくないが、早死にしたくない」と言う哲学は、半分くらいは理解が出来るが、もう半分は「老い」をもう少し感じる頃には、より理解が出来る様になるのかな。


ラストのグッドナイトアイリーン、素晴らしい。



【お酒】
ドクロのロックグラスで飲むウイスキー、バディガイの勧めで飲むコーンウイスキー。

その他、昔の映像の中からはアップルサイダーの様な飲み物、ステージ上の棚の上に並んだジャックダニエル、クアーズ、そしてコカコーラなど。


・ドクロのグラスで飲むウイスキー
冒頭の、リトルウォルターのブルーアンドロンサムをかけながらグラスを傾けている。
グラスの中には、あまり上等とは言えない白い見た目の氷が見受けられた。
ウイスキーかどうかは、はっきりとは分からないが、液体は茶色だった。
後の描写にもあるように、「ジャックダニエル」をこよなく愛しているので、もしかしたらそれなのかも知れない。
もしくは、「レベルイエル」と言うバーボンも、かなり心酔していると言う情報もあるので、ひょっとしたらそっちかも知れない。
ジャックダニエルは、言わずと知れたウイスキーで、テネシー州のリンチバーグと言う場所で作られた、甘くスムースな飲み口が特徴のテネシーウイスキー。

他方レベルイエルは、一般的なアメリカンウイスキーが「とうもろこし、ライ麦、大麦麦芽」で作られる中、ライ麦の代わりに小麦を使った珍しいウイスキー。
ライ麦を小麦に代える事で、小麦由来のパンの様な甘さが加わり、なんとも言えない独特な風味になる。

ジャックダニエル、レベルイエル、いずれのウイスキーもスムースで甘い口当たりと言うのが、キースリチャーズのキャラクターから考えると、ややズレがある所がまた興味深い。


・バディガイの勧めで飲むコーンウイスキー
バディガイズレジェンズと言うバディガイのお店で、2人仲良く飲んでいる。
字幕では、バディガイが「コーンウイスキー飲む?」と、聞いていたが、セリフは“corn liqueur?”だった。
更にドリンクスタッフは、“white lightning (
ホワイトライトニング)”と言っていた。
※ホワイトライトニングと言うのは、密造酒を意味するスラングの1つで、「飲むと白い稲光が見えるくらいの刺激があるから」や、「密造者が車でヘッドライトを照らしてジグザグに逃げる様子から」など諸説ある。

画面には、ラベルの見えないジャーに入った透明な液体が映し出されていて、おそらくこれがコーンウイスキー(ホワイトライトニング)。
ラベルが無いので、本当のホワイトライトニングなのかも知れないと、ロマンを抱いてみる。

次に映し出された時、2人は乾杯をするのだが、バディガイの手には透明なコーンウイスキー、キースの手には少し黄色く濁った液体。
これはおそらく、このコーンウイスキーにレモンを漬け込むなどをして作られた、「ムーンシャインリキュール」なのだと思われる。

アメリカでは近年、密造酒を真似して合法的に作られた『密造酒“風”のお酒』が流行っている。
広口のジャーに入れられ、熟成を施していないコーンウイスキーや、そのお酒に果実やスパイスなどを加え、飲みやすいリキュールにしたものが売られている。
日本でも時々見かける事が出来るが、流行には至っていない。
興味のある方は、「ムーンシャインリキュール」で検索すると、国内で買える品がいくつか出てくる。
また、“moon shine lemon”と検索すると、ここでキースが飲んでいる様なお酒もヒットするので、合わせて見て頂けたらと思う。


過去の映像のお酒は、今回は割愛させていただく。


この場面で、バディガイが話す言葉を引用して、このレビューを締めさせていただく事にする。

『苦労を知ればブルースになる
知らないなら生き続けろ』
Arata

Arata