ひれんじゃく

メッセージのひれんじゃくのレビュー・感想・評価

メッセージ(2016年製作の映画)
5.0
 冒頭からグングン引き込まれる。「未知の存在に対して双方に共通する唯一のツールである言葉を使ってなんとか意思疎通を図ろうとする」ところがすごく最高。相手もこっちもお互いに相手のことがよく分からないけど、それでも何を言ってるか懸命に知ろうとしている、その歩み寄りに惹かれるのかなあ。今の情勢を見ていると余計に。(…)

以下でだいぶネタバレ+なぜかテネットとメメントの内容にも触れてるので注意



















 流れ的に薄々予想はできたとはいえやっぱり「言語が武器」ってのはメチャクチャいいなと感服してしまった。言語学習の姿勢によるとも思うけど、たしかに他言語を学ぶとなんとなくその言葉を話す地域と人たちに対する考え方も変わるっていう話には納得できる。わたしのそれはニュースとかでも「あっ〇〇語だ!」って反応したりとか、そういうなんとなく親しみが湧く程度のものだけど。以前は無関心だったものでも、今は自分と接点を持っているというそれだけで見方が変わってくるのは確かにそうだと思う。
 このような経緯もあり、「向こうの言葉を会得したから全く新しい時間の概念も獲得できる」っていうノリが斬新だと思ったし、私の経験的にもなんとなく納得できるものではあった。にしても言語で未知の生命体とわかり合おうとするって本当いいなあ………………現実世界にメチャクチャ落とし込みやすい。言葉を勉強すれば(ニュアンスなどの細かいところはさておき)最低限の意思疎通はできるんだもんなあ。たしかにこれは大きな武器だ。しかもたとえ知らない言語であっても、先人たちがおそらく主人公たちと同じようなことをして組み上げた語彙の対応表だの文法の説明だのが既にできているわけだし。これはすごいことだ。「英語?ウエッ」と言っていた中学生の頃の自分に見せたい。とかいいつつ本格的にというよりはのんびり趣味の範囲でやっていこうという気持ちに変わりはないけども。今まで私が見てきたエイリアンが「そもそも対話の余地がない(「エイリアン」「遊星からの物体X」)」「向こうがこちらの言語を覚えて話してくれるので解読しなくてもなんとかなった(「宇宙人ポール」)」「言葉とか以前に心で分かり合えたからどうにかなった(「E.T.」)」とかだったのもあり、真剣に一から意味を把握して目的を探るっていうのがシンプルにとてもとても良かった。

 冒頭に挟まるカット(+過去を振り返るようなナレーション)だからって勝手にそのシーンが過去のものだと思い込んでしまう我々の思い込みを利用してきたところには唸りました。未来を冒頭に持ってくる場合もあるってわけね。メメント的な。主人公の心象風景の描写は確かに多かったけど、私的には宇宙人とどう繋がってくるのか興味津々だったので全然許容できた。娘を亡くす未来を現時点で知り、既にその悲しみに潰されそうになっていてもなおその未来に向かって突き進む姿勢はニーチェの運命愛を思わせる。「どんなに悲しみや苦しみがあったとしても、たった一度の幸福を永遠に味わいたいと思ったら、その時点で人生そのものを肯定し、受け入れ、愛したことになるのだ」というそれ。

 そして全く関係ないけどテネットは「未来は現在の時点で知ることはできず、知る時が来るとしたら逆行して自身が自身の残した痕跡を身をもって回収するその時」だったけど、これはもう「未来のことを現在の時点で全て知ることができ、そこで知った情報は現在と共有してその未来を作り上げるために活かすことができる」っていう時間観の差が面白いなとも。時間の流れがなくなるってのはそういう意味なんだなと深く納得できた。

 にしても言葉が通じる(少なくとも一から文字を解読して向こうの言葉とこちらの言葉の単語の意味を照らし合わせる作業が必要ない)はずの人間同士は普通に戦争するし人の国に侵略するしで本当憂鬱になる。この映画のように宇宙人からの贈り物を手にして未来が見えたらその未来の実現のために団結することもあるのだろうけど、現実はそんなに単純じゃないので今どうにかするしかないという。一方で未来がどうなるか知らないからこそ、たとえ暗澹たる結末が待っていようとも無知ゆえにひたすら行動できるみたいな側面もたしかに人間は持ち合わせているはず。せいぜい平和な未来を作ろうと足掻きましょうよ。互いを罵り合ったりけなしあったり武器を向け合ったりしないでさ。言葉で言うのは簡単だしこれが言語の限界なのかもなあ。認めたくないけども。
ひれんじゃく

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