愛

メッセージの愛のレビュー・感想・評価

メッセージ(2016年製作の映画)
4.8
洗練されたリビングダイニングの開放的な窓はヘプタポッドとの出会いを彷彿させ、レクイエムのような荘厳で美しいサウンドトラックはアボットとハンナへ捧げられているかのよう。
彼らが表す円形の文字、娘の名前、作品と音楽の構成、丁寧に張り巡らされた「ループ、循環」というテーマは輪廻転生を思わせる、命と時間の物語。胎内に沈み込むようなあの感覚が忘れられず、もう一度劇場で鑑賞したい。

本筋から少し逸れた話になるけれど。
同じ母語を持つもの同士の間では円滑なコミュニケーションが取れるはずなのに、互いが放つ言葉の辞書的な意味はわかるからこそ、真意や文脈に隠された本音が読み取れなかった時の齟齬が妙に気になってしまう。

先日ある人の家で「(ソファに)座んなよ」と言われ、あまり脳みそを通さず「今座ったら溶けちゃうから」と答えたら「どういうこと?あ〜寝ちゃうってこと?」と返ってきて。確かに「寝ちゃう」は明朗だけど当たり前のようにスッと出てこなかったし、しっくりもこなかった。
私自身が無意識的に発している「正確に意思を伝える言葉」が、往々にして相手にとってのそれとは一致せず歯痒い。あまつさえそんな相手にこそ惹かれるので余計にもどかしい。

昔から「もっとシンプルにお願い」「独特な言い回しするよね」「何言ってるかわからない」と言われることが多かった。「相手に一番伝わる言葉を瞬時に選択する能力」が著しく欠如しているのだ。

私が調子良く軽快に喋っているときは何かの"フリ"をしていて、夜の世界がその演じ方を教えてくれた。人間関係がつらいときこそ、あのママだったらどうするかなと反芻する。
いわゆる「コミュ力おばけ」な子に憧れ羨ましいと思ったこともあったけれど、持続的なキャラづくりをする器用さも持ち合わせていなかったから、その場凌ぎの演技力だけは備えておくことにしたのだ。

相手への忠誠を言葉で示すか行動で示すかいうシンプルな議論に繋がるかもしれないけど、遠回しな言い方しかできない人は行動も遠回しなのよね。
想いは通じなくても、一緒にNetflixを観ていたら気づけば夜中の3時。「小腹空かない?」なんて近所のマクドナルドでポテナゲセットを買ってきて一緒に胸焼けできる関係も、案外好きよ。
愛