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リメンバー・ミーのnetfilmsのレビュー・感想・評価

リメンバー・ミー(2017年製作の映画)
4.2
 すぐに目に留まるカラフルな色彩、太陽が燦々と輝く石畳の路地、その狭い通路の奥にミゲルの家はある。メキシコのサンタ・セシリアの街の喧騒は、マリアッチの奏でるアコースティック・ギターの響きがスクリーンに向こうから聞こえて来そうである。靴職人の家として、代々生活を支える両親の元で育ったミゲルは、祖母のエレナから家族の掟として「音楽禁止令」を言い渡されていた。だが彼の音楽への情熱はその血筋に現されていた。アメリカの隣国、メキシコを舞台とした物語はメキシコの伝統行事である「死者の日」が重要なモチーフとなる。11月1日〜2日まで大々的に行われるこのイベントは、先祖の霊が戻って来ると言い伝えられている日本で言えばお盆のような日である。音楽が大好きだがお婆ちゃんに禁じられているミゲルは夜な夜な、屋根裏部屋で愛犬のダンテの前で音楽を奏でているのだが、ある日、祭壇に掲げられたひいひいお婆ちゃんのポートレイトの首から上が千切られた写真に目を留める。その手に握られたギターから、自身の先祖はこの町が生んだ英雄であるエルネスト・デラクルスに違いないと踏んだミゲルは、音楽の血統が求めるまま真っ直ぐに進む。「ここから先には行ってはいけない」と家族に忠告された主人公が、勇気を出して危険な外の世界に足を踏み入れる物語は、近年のディズニー/ピクサー映画の潮流にも思える。

 やがて生者の国で自由を謳歌しているかに見えたミゲルは、先祖たちが住む世界である「死者の国」へ足を踏み入れる。体は透明化し、迷い込んだ主人公は自身の生身と魂との間で葛藤する。その違和感は死人たちにもすぐにバレ、彼は生まれてから一度も会っていないひいひいおばあちゃんであるイメルダに追いかけ回される。生から死への時間を超越するパラドクスは、主人公の成長譚ともなり得るが、何より家族との絆を巡る自分探しの旅となる。ミゲルと愛犬のダンテの逃避行を手助けすることになるのは、ヘクターという陽気な骸骨青年である。足を引きずるような歩き方をするヘクターをミゲルは真似るが、やがてヘクターの真剣な思いに触れることになる。太陽が燦々と輝くメキシコの雑踏とは対照的な、現実離れした死者の国のビジュアルの美しさにまず何よりも心を奪われる。何層にも積み重ねられた塔のような街並み、マリーゴールドのオレンジが幾重にも積み重ねられた橋、濃淡の鮮やかな住居の上の空に舞う花火。美しきビジュアルの妙の中で主人公は自身の魂の置き場所であるルーツに触れる。亡き人との思い出を大事にする気持ちは、メキシコでも日本でも変わらない。『リメンバー・ミー』のメロディが誘う家族の絆の物語に、クライマックスでは思わず涙腺が緩んだ。
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