るる

リメンバー・ミーのるるのネタバレレビュー・内容・結末

リメンバー・ミー(2017年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

去年かなあ、予告編を見たときから、なんだよ、西野亮廣の絵本『えんとつ町のプペル』じゃん! どうせ、死者の国で出会った彼が、実は父親なんでしょ? なんだよ!って思ってた。でもピクサーだし、もうひとひねりあってほしいな…って思ってた。

正直、期待は超えなかった。途中、やっぱりヘクターではなく、デラクルスが父(もとい祖先)なのかな、と思って、だったら面白いぞ、と前のめりになったので、あ、なんだ、結局? と拍子抜けしてしまった部分もあり。

うーん、ディズニー&ピクサーこと、ハリウッドこと、移民の国アメリカが、伝統や歴史について語り始めた点は、画期的だとは思うけど、いかにも保守派の台頭を感じるし、
アメリカ人にとっては、メキシコの祖先崇拝の風習が物珍しく見えるのかもしれないけど、日本人からすると…飽き飽きしているようなことで、ちょっと辟易してしまったな…
あの感じで日本のお盆をディズニー&ピクサー様にアニメ化されても、全然ワクワクできないぞと思っちゃったんだよな…家族は大事だが縛られたくはないのでな…

なんなら厳しい祖母や年長の女性に"理不尽に"厳しくされる感覚は、女の観客のほうが身に覚えがあるんじゃない?
田舎なら、あれが日常じゃない? なんなら、女は家業を手伝えと言われるけど、決して継がせてはもらえない…と思ったりして…女主人公で見たかったなあ、と序盤はどうしても思ったなあ…

いや、これも必要な物語だけどね?これを見て、救われる男の子はいるかもしれない、女の子が昔から味わってきた境遇を、いま味わって、鬱憤を抱えている男の子は、いまこの時代、沢山いるかもしれない、
女が強い家に生まれて、例えばシングルマザーに育てられて、父性に憧れている少年はいるかもしれない…でもその母親の立場からすると、モヤっとする物語じゃないかなあ…なんて

靴屋の同世代の女の子が意地悪に描かれていたり、女の子への悪意が見え隠れして、もやもやしたんだよな…

「マンゴーの中からたくさんの私が出てきて、トゲだらけのサボテンを登るの、でもそのサボテンも私、難しすぎたかしら?」ってくだり、あの渡辺直美ちゃんが吹き替えやってる〜!好き!という面白さも相まって、畳み掛けるテンポにめちゃくちゃ笑ってしまったんだけど、
あのマンゴー、明らかに女性器のメタファでしょ? で、サボテンが男根のメタファで、女が男社会の中でのし上がることを言ってるのだとしたら、チョット小馬鹿にしてないかい??どうなのよ??女性芸術家を皮肉ってんのか??あん??とも思ったのよね…
フリーダ・カーロって実在の芸術家、もうちょっと作品全体からリスペクトを感じたかったような…?

ピクサーの製作陣はボーイズクラブみたいなノリで、女性スタッフは会議に参加させてもらえない、という暴露記事を読んでしまったことあり、さもありなん、と、どうしても思ってしまったよ。

そして私は、女が味わってきた苦痛を、男にも味わせたいわけじゃないのでな…ソワソワした…私は伝統やしがらみから、ちょっとだけ抜け出た景色をこそ見たいんだ…

やっぱり、ラテンの国は女性が強い土地柄なのかなあ、と冷静に思ったりもしたけど、
女が権力を握っても家父長制の女版になるだけだと示しているように感じたし、
女が強い時代に生きる男の子に贈る物語なのかもしれないけど、それにしてはちょっとなあ…男性の懐古主義が過ぎる…
お父さんの存在も忘れないでね、という話で、悪いけど、女性の観客としては、チョット気に入らない…それを言うなら、お母さんは凄いけど、でも、という部分をもうちょっと丁寧に描いてよ、って気持ち…

モアナの次がこれか、っていう失望があったんだよね。女がこれから身を立ててやっていこう、リーダーとして頑張っていこうとしてるなかで、水を差された気分。
併映のアナ雪の、伝統を持つことができなかった女たちの描写といい、国民を振り回す描写といい。女はダメだと言われた気分よ。

まあ、アメリカでヒラリー負けちゃったからね、時代の気分には合ってるのかもしれないけど…居心地の悪い思いをしたよ。

だってなあ、ヘクターが嫌いなひとなんている!?
私は大昔に見たドラミちゃんの短編映画、青いストローハットを思い出したんだけど、
あの気の良い兄貴分キャラ、好きに決まってんじゃん…

で、ヘクターが実は父、いや、ひいひい爺さんだったとわかる…想定の範囲内だし、「ヘクターが家族で嬉しいよ!」って、そんなの当たり前じゃん…? そりゃ、情けないところがあっても、あんな友達みたいに接してくれる趣味の合うひとがお父さんだったら嬉しいよ。なんの驚きもないよ…

私は、自分の父親、先祖、憧れのひと、尊敬するひとが、デラクルスみたいなひとだと知ってしまったときに、デラクルスみたいな奴が自分の家族だと知ってしまったときに、どうするべきかをこそ、もっともっと知りたいし、観たいんだよな。

ブラックパンサー でも、偉大な父が実は…という展開があったけど、ウヤムヤにされてしまったんだよな、モアナもウヤムヤ…
古典的な物語に当たればいいのかもしれないけど、いわゆる父殺しをせずに、自分のルーツは大した奴じゃなかった、でも、それはそれとして自分の人生を歩んでいかなきゃいけない、という物語を…スターウォーズep8は、だから、めちゃくちゃ好きだったんだけどさ…うん…

憧れていたひとは、実は祖先から功績を奪い、毒殺した男だった、あいつこそが悪者だ、って、なかなかショッキングな展開だったけど、どこか既視感があって、
あの鐘で押しつぶす結末には罪悪感が先立って、痛快だとは感じなかった。勧善懲悪といえば、そうだけど、あまりにも大雑把に感じて…
大スターの彼が、人々から忘れられることなんて、この先そうそうないわけて、ペテン師と判明してからも、死者の国で消えることもできず、糾弾されながら、ひとり孤独に暮らしていかなければならないのだとしたら、なんという報いだろう…! なんという生き地獄だろう…! と恐ろしい気持ちになったので…うん…

極端なことを言うと、自分の親父がトランプ大統領みたいな奴だったら、どうするよ?っていう話よ…いまだからこそ、そのあたりに、もっと真剣に向き合って欲しいんだよな…縁を切って、倒せば、OK!ではないでしょ…彼のような悪名高いひとも、自分たちのの歴史の一部として受け入れて進んでいかなくちゃいけないのが、現在のアメリカでしょ。
そしてそういう話のほうが私の肌感覚にも合うんだよな…

もし、デラクルスが自分の先祖だったら、ミゲルははたして、写真を飾ったかね?? 家族の歴史を知った上で、隠蔽したんじゃないかね?? そういう辛さを抱えた子供の物語をね、個人的には観たいんだよね…
デラクルスみたいな父じゃなくて、ヘクターみたいな父がほしかった、って意味では、そうね…と思ったけどね…作品の対象年齢を考えれば、とても正しい…
ヘクターという、小市民的父親を勇気づける物語だったとは思う、ミュージシャンとしての夢を叶える、男の子を勇気づける映画だったとも思う…

でもなあ、母が父のことを悪く言うってことは、別れた男のことを女が悪く言うってことは、やっぱりそれなりの理由があるぜ?とは思った。
シングルマザーを何人か知ってるし、シングルマザーに育てられた息子を何人か知ってるので…なんか…ソワソワしたよな…
夢を追いかけて家族を捨てた男は、つまり、家族より自分の夢を優先したということだからね…その事実は消えないからね…
イメルダとヘクター、あっさり仲直りするんだなあ、と思って、でもまあ、死後の世界で誤解が解けて仲直りすることもあると思えば、希望かなあ…

正直、夢を追いかけて家族をおろそかにした男の反省をきちんと描いたグレイテストショー・マンのほうが、気持ちよく観れたかもしれん、歌もやっぱりあっちのほうが好きだったかも…アカデミー歌曲賞…いやそれは置いといて

たしかに、あの祖母の態度は、そこまで音楽を禁止すんのか!?って感じだったし、あの街であの態度じゃ、子供は友達も上手に作れないだろうし、だからこそ家族の絆が全てになってしまうんだろうな、と思って、なにその囲い込み、つらっ!!! 家族は宗教の最も小さな単位というけれど、つらっ!!!と思ってしまって、

でもあの祖母エレナも、きっと、祖母イメルダにああやって教育されて、母ココのことを思ってやってるわけで、根が深え…!つらい…!!と作中で描かれていない部分に悲しくなってしまった。

いくら嫌いな男がいて、ソイツに迷惑をかけられたからって、ソイツが好きだったもんまで嫌いになることはあるまい? 子供にまで禁止するなんて愚かだろ、って、そんなの当たり前だけど、
でもきっと、イメルダは音楽を聴くだけで辛かったんだろうし、大スターのデラクルスを見るたびにイライラムカムカしてたんだろうし、お父さんが大好きなのに、そんな母イメルダに育てられた娘ココは、屈折した日々を過ごしたに違いないし…

という彼女たちの事情を、ちゃんと描いてほしかったんだよね…夢を追う男の子への現実的なメッセージの数々は好きだったけどね…

認知症のおばあちゃんが出てくる話にはアンテナが反応してしまうんだけど、
彼女が忘れることで死者の国のヘクターが消えそうになる、という設定には、ハッとした。
おばあちゃんがボケてしまう前にもっといろんな話を聞いておけばよかった…家族の歴史を知れたかもしれないのに…というのは、あるあるで、そこと繋げるか!と脚本の妙味に膝を打った。
でも、歌を聞かせて思い出すのは、想定の範囲内だし、ココが喜んでる姿を見て、全てを許すエレナも想定の範囲内で、やっぱり、描写が雑と思ってしまったな…

ハードルが高くなってる自覚はあるよ!!でもディズニー&ピクサーには近年、高次元のフィクションをこれだけ見せてもらったから…チョット物足りなかったな…

私はやっぱりどっちかというと、あの主人公が抱っこしていた、妹が大きくなったらどうなるのかの話を観たいんだよな…なんて。代々続いた靴屋をどうやら廃業して、観光業を始めた家で、あのキツイ祖母のもと、家業を継がずにミュージシャンとして活躍する兄を見ながら育つ、女の子が、女傑イメルダへのリスペクトと憧れを持ちつつ、靴屋の復興以外の自分の夢を、実現しようと奮闘する話をね…もっともっと観たいなって…

とはいえ、イメルダとヘクターの仲直りは微笑ましかったよ。イメルダ好きだったよ…ココは随分長生きしたのね、良かったねえ…

画面の美しさにも終始圧倒されたし、オーディションやデラクルスの気を引こうと演奏するシーンにはワクワクしたし、音楽の話のなかで使用された主題歌がアカデミー歌曲賞とるのも納得だし、メキシコを舞台にしたアニメが評価されたことで救われるメキシコ系アメリカ人、移民の子孫がたくさんいることもわかるけど、

涙腺が緩んだシーンもあったけど、ちょっとな、物足りなかった、もっとすごいもんを見せてくれるって、期待しすぎてたのかもしれないな…

犬の名前がダンテ、映画に出てくる馬の名前、そんなところまで真似を、とミゲルの憧れの深さを思って、ハッとしたな…ヘクターが出国できることになって涙ぐんでいた出入国管理局の職員も良かったよな…彼は一体、何十年チャレンジして入国拒否されていたのか、っていうね…そしてそれはきっと移民の歴史でもあるのよね…

いやはや。なんとも。
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