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パリはわれらのもののtkykのレビュー・感想・評価

パリはわれらのもの(1961年製作の映画)
3.9
ジャック・リヴェット的としか言いようのない世界観が繰り広げられていた。ジャック・リヴェット的な世界観とは世界を裏で支配する何かが現実に徐々に侵食してくる世界観であり、言い換えれば陰謀論的な世界観とも言える。自分が観てきたジャック・リヴェット作品はどれもそういった陰謀論の存在を感じさせるものであり、彼の作品の特徴のように思う。
本作も不審死が連続する事で徐々にパリを支配するナチスらしき組織の存在が立ち現れる。しかし本当にそういった組織が存在するかは分からないまま物語は終わる。この存在の不確かさこそがリヴェット作品の真髄だと思う。
陰謀論では不可解な出来事の積み重ねによって陰謀が作られ、世界を支配する組織の存在はそれを根拠にしてのみ信じられる。本作もインテリの不審死のみによって組織の存在が根拠づけられている点で陰謀論的である。

ジャック・リヴェットの作品を何作か観ると演劇や映画といった虚構と我々が生きる現実の関係性が陰謀論と似ているように思う。
演劇や映画の中の人物はそれが演じられているものである事を全く認識していない一方でそれを観る現実の我々はそれが人の手で作られている事を知りながらもう一つの現実として眺めている。
この関係性は現実世界の人々がその存在を認識できない組織によって世界が支配されているという構造と似ている。演劇や映画は現実世界、作り手は世界を支配する組織、観客は陰謀論を信じる人々に対応している。
ジャック・リヴェット作品はこの三者の関係を様々な形で投影しており、演劇や映画と観客の関係をメタ的に描いている。劇中で演劇が行われたり、劇伴の演奏者が現れたりする場面はそのメタ性を強く意識させる。

本作は今まで観てきたヌーヴェルバーグ作品の中でも画面変化が激しかった。会話シーンでの細かいカット割や一点にとどまる事なく動くカメラワークはそれだけでインパクトがあり、カメラをなるべく動かさずに絵画的に画面にインパクトを持たせるヌーヴェルバーグ作品とは一線を画していた。

ジャック・リヴェットの比較的初期の作品であるが彼の作家性を感じさせる作品だった。
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