せみ多論

ぼくのエリ 200歳の少女のせみ多論のレビュー・感想・評価

ぼくのエリ 200歳の少女(2008年製作の映画)
3.8
スウェーデンの作家、リンドクヴィストの小説『MORSE -モールス-』₍原題 Låt den rätte komma in₎を映画化した本作。
ホラー映画のヴァンパイアものでありながら、いじめ問題や家庭の問題も盛り込まれている本作。同じスウェーデンの作家、ラーソンの『ドラゴンタトゥーの女』と同じく社会問題を作品に盛り込むという一致は偶然なのか、お国柄なのか、浅学のため判らず。

主人公のオスカーは母子家庭でいじめられっ子。いじめのうっ憤を独り言や木にナイフを突きつけて晴らす鬱屈した日々を過ごす。そんな彼の住むアパートに老人と少女の二人が引っ越してくる。少女は本作のヒロイン、エリ。ヴァンパイアである。

平たく言ってしまえば、人間であるオスカーとヴァンパイアであるエリとのボーイミーツガールもの₍厳密には違うかもしれないが₎とホラーの融合ではあるけれども、とても面白かった。また、原作では老人はペドフィリアという設定らしいが、映画内でははっきりと明言はされていなかったはず。エリのために殺人をする老人であり、彼も主人公と同じくエリに魅入られているのだ。

ただ本作を観た方は誰しもが思うとは思います。この邦訳タイトルへの憤り。
本作で一番重要な点で大嘘こいているってのは馬鹿なんですかね。少女じゃねーんだ、少女じゃ。
個人的な感想ではありますが、本作はいじめられっ子のオスカーがエリと出会い、それまでの弱い自分から変わっていくのがメインだ。そしてオスカーはエリと種族も性別も超えて共に生きることを選ぶ。ホラーで包みながら愛の問題や性の問題にも切り込んでいる作品の核をぶち壊してどうするんだと。訳を担当した人間は何も見ていないのだというのが非常に残念。洒落た雰囲気だけで中身のないタイトルをつける無神経ぶりに腹が立つ。

映画の中身で気になる点といえば、オスカーは母との間にも隙間があり自らの居場所がないという設定だが、そこまで疎遠な印象が取れなかった点。割と普通の母と息子くらいの関係じゃないかとは思いました。

好きな作品。ただもっと好きな作品はリメイク版『モールス』
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