ちろる

フランス組曲のちろるのレビュー・感想・評価

フランス組曲(2015年製作の映画)
4.0
誰も知る由もない私の心を
わたしさえも知らなかった私の心を

ずっと昔に閉ざした心で結ばれた誓いは、
埃をかぶって、ただそこにあるだけ

広いお屋敷も、裕福な暮らしも牢獄のよう
満たされず、なぜここに辿り着いたのかも分からない

皆は蔑む。私は売国人だと
私も憎いドイツという国が
でもドイツ兵である彼をどうしても、憎むことができなくてそれが苦しい

あんな素敵な音色を奏でる人が悪い人であるはずがない
私だけが知ってる、私だけのあの音色

1940年、ナチス・ドイツの占領下にあるフランス。田舎町で厳格な義母と2人きりで生活しながら、出征した夫ガストンの帰りを待っているリュシル(ミシェル・ウィリアムズ)。
ドイツ軍兵士が、フランス人の家までも占領し始め、もちろんリュシルたちのお屋敷も例外ではなく、憎き占領国の将校ブルーノが住み始める。

敬意を持ってリュシルを接するブルーノ
まっすぐ愛することは許されない
例え旦那が不貞をしていても
例え旦那と愛し合った記憶がなくても

だって、彼は憎きドイツ人兵なのだから

時には利用し、利用されることでかろうじて関係を築ける2人。
抑え込まれた欲望は行き場もなく、理不尽な戦火の中で消されるだけ。

国籍が異なる2人は話す言葉も異なる隠れた恋だから当然言葉は少なめ。
その中で見せるミシェル・ウィリアムズの意志の強い瞳の演技と、ドイツ人将校のマティアス・スーナールツの繊細で真面目な人柄を表す演技に引き込まれる。
まるでピアノで愛を伝えるような旋律に状況をふと忘れてうっとりする。
特にラストの美しさは秀逸だ。

戦場ではなく、ナチスドイツに支配されたフランス人たちの生活を軸にした本作。
皮肉なことにこれを生んだ作者イレーヌ・ネミロフスキーは、60年以上前、アウシュビッツにて無念の思いでこの世を去ったのだが、音楽こそは国境を超え、やがて愛溢れる会話となるのだと彼女の魂が訴えかけていた。
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