寝るのだいじ

葛城事件の寝るのだいじのネタバレレビュー・内容・結末

葛城事件(2016年製作の映画)
3.3

このレビューはネタバレを含みます

家父長制が強すぎて歪んだ人間だけの家族になった話。実話の派生。

様々な実在する無差別事件の要素を合わせて作られたそう。人が歪むまでには共通した原因があるのだと捉える。

父が自殺するときのコードの結び方が、金物屋やっていたからこその職人のやり方で、最後の最後まで自分に残ることは良くも悪くもこれまでしてきたことなのかなと、あの一瞬で悲しくなった。
逆に日々が丁寧で正当なことの積み重ねなら、良い死に方が迎えられるのかもしれない?

父は高度経済成長期を味わい、日本男児をずっと追い求め、自分も寂しさを抱えており虚勢を張っていた結果、言うことを聞かない家族にはDV化。
母はそれにより、子供をまもらんと自分の精神がおかしくなる。それでも守りつづけようとする。
長男は家父長制により愛情たっぷり期待される。その期待に裏切りたくなくて、そもそもの実力も家族を大切にする観点も無いので、何かあると怒られまいと全て隠す。
次男は長男と比べられ続け、それで無気力なのも怒られ続け、自我を失い狂う。

こんな家庭で健全に育つ方がおかしいと思うくらい、日本の家父長制や長男だけ大切にすることの恐ろしさが詰まっている。

次男の味方は唯一母親だった。しかし母親も精一杯だった。
そんなことにも気付けないほど虚無感や何者にもなれない苦しみから、社会への報復として、次男は無差別殺人を犯す。

現代でも蔓延る男社会や男尊女卑は、昔だともっと強いものだったはずだ。今でも辛いのに、当時の辛さなど計り知れない。
人にされたくないことはしない、寂しいからと人に当たらない、そういう当たり前な大切さが抜け落ちているのに理想とされ信じられてきた「男性は男らしく弱みを見せずに、女性は子供を育てる」の脆弱さと恐ろしさが語られていた。

犯罪者を擁護するつもりはないが、背景を知ることは大切だし、その背景をどうにかするきっかけになるのが犯罪でもある。より良い社会や人間の生活を考えるなら必要な視点だ。

死刑については賛否両論あるが、もしこの次男を死刑撤回で更正させたいのなら、長年の傷を倍の年数で心を治療しなければならないのは事実である。
その年数分の治療費を考えての死刑なら日本の司法や財政が問題になるし、このコストではなく手の施しようがないものなら死刑は妥当かもしれない。

物事には必ず原因がある、という考え方はとても大切だし、この作品から学ばなければならない。