映画好きなねこ

葛城事件の映画好きなねこのレビュー・感想・評価

葛城事件(2016年製作の映画)
3.2
実際にあった無差別殺人事件を元に作られた作品だそうで…。複数の事件を参考にしているみたいですが大元は2001年のあの事件なんですよね。私はまだ子供で当時は加害者やその環境についてまで理解していませんでした。あの時の報道状況や世間の反応を知っていればもっとこの作品を理解出来たのかとも思いますが…そもそもマスコミの過剰な加害者や被害者に関する報道は嫌いなんですよね。だから結局あんまり変わらないのかも。
今回この作品を観ようと思ったのも、あの犯罪者及び家族について描かれているからではなく、予告編で観た三浦友和さんの中華料理店での演技が凄いなと思ったからで。
重苦しい映画だろうなと覚悟しつつ観ましたが本当に予想を裏切らない重苦しさ。役者さんたちの演技力あってこそのものだと思います。高圧的で理不尽、プライドの塊の父親とそんな父親の影に怯え精神的に脆く頼りない母、期待やプレッシャーに押し潰されそうなのにそれを外に出せない不器用な兄、父親に蔑まれ無気力で何事も続かないのに言い訳だけは達者な弟(後の犯罪者)。どこにでも居そうな、でもどこか歪んだ人格をうまく表現していて自分も少し道がずれてたらこうだったかも…こうなっちゃうかも…という不安を煽ります。
中華料理店のシーンも「わかるー!!」って思わず顔をしかめてしまうくらいリアルでした。いるよ!こういう人いる!!周りが気まずくなっちゃう辺りもリアル。上手く言葉で言い表せないけど物凄くこのシーン好きです。兄の張り詰めていた糸がプツンと切れる瞬間のシーンもすごく良かったですね。煙草を拾いに戻る、それだけなのに凄く伝わってきました。
唯一理解できなかったのが獄中結婚した彼女…。実際にいたそうですが、彼女の気持ちが全く分からない…。実際の事を調べたりしていないのであくまで映画を観ただけでの感想ですが。貴方を愛するって…何をもって?愛することって、結婚って、そういう事なの??多分私の価値観とずれ過ぎていて鑑賞中ずっと「??」状態でした。人間に絶望したくない、愛を知らないだけ、それは何となく理解出来るんですがだから結婚して家族になる、私は全身で彼を愛す…うーーん…。結構物語の主軸になっている感じがしたけど理解出来なかったのでそこだけ残念。
ただ、三浦友和の演技は本当に凄かった。こんなお父さん嫌だ〜〜って心底思えました。「矢面に立って家族を守る、家を守るのが父親だ」と過去自慢げに語っていた三浦友和がスナックのママに「もう待ってても誰もあの家には帰ってこないんだよ?」と諭されるシーンが印象的でした。ラストは切ないと言うより物悲しいというかやるせないというか…哀れだなと。