jonajona

ビースト・オブ・ノー・ネーションのjonajonaのネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

孤児ゲリラ少年兵の見た容赦無い地獄。

何も調べず見たので背景は全く分からないですが、戦争下の過酷さ、善悪の境界線が次第に崩壊していく戦争の狂気の恐ろしさが非常にリアリティと主観性を持って描かれてて見事だった。背景に無知だったのが逆に普遍性を持たせてくれた気がする。

地味に序盤の少年たちの楽しげな小銭稼ぎシーンが見事。少年の小さな世界の見方と周囲の環境をさりげなく全て示してる。こども達が歌うオープニングの可愛らしさも良い。少年兵たちの可愛らしい頭巾などファッションが秀逸。ほか戦争映画にくらべても全体的に美術点が高い。

中立地帯に住む少年は家族と危険と隣り合わせながら慎ましく暮らしていたが、反政府軍による政権奪取に伴い地獄のような世界に放り込まれる。

映像の美しさがより絶望に満たされていく少年の内面との落差を浮き彫りにしていく。ラリって反対勢力の人を軍民関わらず皆殺しにしだす狂気の始まりの演出が見事。ラリった時に鬱蒼とした草木が鮮やかな朱色に様変わりする演出でまるで別の星の出来事のような空虚さと高揚感が醸し出される。

神様への呼びかけは一向に報われず、母との再会を夢見る少年はやがて悪魔に成り果てる。主演の少年の幼さを残したまま死人のような目をする演技は神がかっていい。脚本的には段階的に人の道を踏み外していく過程を、イドリスエルバ演じるカリスマ指導者との邂逅など興味の持続を図りながら描いててうまく計算されてる。

イドリスエルバは流石なカリスマ性だった。入隊の儀式で棍棒でぶっ叩いて気絶する少年は容赦なく掻っ捌いていくスタイル怖すぎて悲鳴あげそう。
銃弾も怖がらず戦場で大通りを闊歩する英雄でありながら、小児性愛者という闇が神格化された彼の醜い浅ましさを浮き彫りにする、キャラ造形が見事。ここまで自分の軍隊を作り上げると彼が戦場から離れられない戦争の虜になってしまっているのも頷ける。おそらく彼は戦場で初めて輝いた人間なのだろう。
よくこの役を受けたなぁと役者としての確かさに信頼が高まった。

イドリスエルバとの決着がなく終盤は正直すこし不満が残ったが、少年を食い物にした下衆でありながらも戦争孤児だった少年にゲリラ兵として生きる道を示した命の恩人でもあるわけで、彼を殺すというのは少年に出来ないというのは納得。
彼との邂逅がなければ早々に死んでたのは間違いないだろう。
父であり仇、その愛憎入り混じる対象への思いがそのまま戦争の複雑性を象徴してるようでも有る。
戦争は悪きこと、そんなのは当たり前だが当事者にとってはそこで生き抜くしか無い。生きるという至上目的の前では悪きことも良きことへと転じる。圧倒的少年の主観で描かれることで抽象性を担保しつつリアリティのある戦場を描き切ってる点で素晴らしい映画だと思う。超怖かった。

ー今日の名言ー
もし僕の話を聞いたら
あなたは思うだろう
僕をビーストか、悪魔だと
実際どちらも僕だ。
jonajona

jonajona