Gianco

ビースト・オブ・ノー・ネーションのGiancoのネタバレレビュー・内容・結末

3.9

このレビューはネタバレを含みます

【残虐性が形成される過程が知れる映画】
映画の序盤では、戦争下の緩衝地点の村で貧しくも家族と仲睦まじく暮らす主人公アグーの子供らしい描写が描かれています。
映画は全てアグー視点で描かれていることもあり、政府軍・反政府軍の対立構造や進捗・情勢など全くわからないまま物語は進みます。

ある日、政府軍がアグーの村を襲い、父と兄が殺され、命からがら逃げたアグーは反政府軍に見つかり、拘束されます。
危うく殺されかけますが、指揮官の命により、兵士として育てられることになります。その過程で一人前として認められるために、強襲した政府軍側の生き残りの男性の殺害を命じられます。
その描写は、アグーたちが政府軍に拘束され、家族が理不尽に殺害された様子と瓜二つでした。しかし、殺さなければアグー自身の身が危ない。

初めての殺人を皮切りに、残虐な行為やドラッグやレイプなどを経験・見ることになります。

アグーは徐々に無邪気な子供から死ぬか戦うかの状況下で希望を失った殺戮兵士となってしまいます。

もし、アグーの村を襲ったのが反政府軍で、逃げた先で拘束されたのが政府軍だったらアグーの立場は真逆になっていたでしょう。戦争というドス黒い社会情勢の波に飲み込まれていった無垢な少年に残虐性が形成される描写に心打たれる映画でした。

戦争に限らず、誰であれ置かれた環境や巡りあわせた出来事や人との出会いが私たちの人格や選好・”当たり前”を形作っているのではないでしょうか?断片的に見た他者の行動(この映画で言えば、殺戮をするアグーの行動)だけで批判をすることがどれだけ浅ましいか突きつけられます。この客観的な視点に立って、他者を理解しようとする姿勢の大切さに気付かされました。
Gianco

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