なべ

ガタカのなべのレビュー・感想・評価

ガタカ(1997年製作の映画)
4.8
 ガタカが単発上映されるというので観てきた。やっぱりいいわあ。イーサン・ホークは母性本能(はないけど)くすぐるし、ジュード・ロウはオットコマエ、てか麗しい!ユマ・サーマンは内から輝いてたし。
 DNA至上主義の未来で、自然分娩によって生まれた不適正者・ヴィンセントが、己の限界を越え、法を欺き、新天地土星に向かうまでの話。短編小説のようなエッセンスだけの話を、オシャレなセンスでディテールアップ! フランク・ロイド・ライトのモダン建築や、レトロでミニマルな衣装、スチュードベイカーなどのクラシックカーなど、ありものモダンを用いて品のいい未来デザインを構築してる。下手な未来デザインより、この方がずっと安上がりでカッコいい。
 他にもタイトルGATTACAが塩基配列になってたり、ジェロームのミドルネームがユー(eu=善を表す接頭辞)ジーン(Gene=遺伝子)だったり、言葉遊びもシャレオツ。
 本来ならクサくてダサい根性ばなしを、静謐でクラシカルモダンな世界に仕上げてるのがもう!
 心臓がはち切れそうなのに何食わぬ顔でランニングを続ける根性シーンや、裸眼で道路をおっかなびっくり横断するシーンがいちいちツボで、観るほどにカーーーッと血圧が上がる。
 なかでも兄弟で争う遠泳シーンの胸熱なこと。根性が才能を上回る瞬間を思い知れ、弟よ。弟は2度も負けてるのにまだ理解できないのな。遺伝的勝ち組なのに頭の柔軟さに欠けてる。そういうとこやぞ、アントン。
 アントンに比べるとジェローム(ユージーン)はもう少し柔軟。ハイスペック人類だけど根性見せるもんね。
 ヴィンセントのために螺旋階段を這い上がる姿はどうだ。動かない下半身を引きずり、汗をかいて足掻く姿の感動的なこと。

 終盤、土星に向かうロケットの噴射と、ユージーン自身を焼き尽くす焼却炉の炎のシンクロが切ない。始まりの炎と終わりの炎をつなぐ演出が泣ける。2位にしかなれなかった人生を銀メダルとともに焼き尽くす覚悟が苦しい。死なない選択肢もあっただろうに。
 でもユージーンはずっと死んでたんだな。ヴィンセントと出会って先延ばしにしてたけど、自分の生はロケットが発射するまでと決めてたふしがある。焼却炉に入る表情がどこか晴れやかなんだよな。
 もしかしたらハイスペック人類には不可能への挑戦は非論理的過ぎてイメージができないのかも。ヴィンセントのように諦められないのはひとつの才能で、粗悪な遺伝子のなせる技なのかもしれない。

 ちなみに最後の最後での検尿シーン。本編ではカットされているが、あの後、ドクターはヴィンセントの尿を飲み干して証拠を隠滅するんだよ(特典映像にあるよ)。エンディングの高まりを乱すからカットしたのだろうが、不適正な息子を持つドクターもジェロームのように夢を託していたのだとわかるんだよね。

 見終えてからも、ガタカのフィールは残り香のようにしばらく漂っていて、あのDNAブローカーの暗躍ぶりに思いを馳せてみたり。
「うちのクライアントには他の天体に旅立った方もいらっしゃいます」と営業トークをしてるかも。クライアントはかなり多そうだし。
 ヴィンセントのようにハイスペック人類に背乗りしている不適正者が結構いるのだと思うとなんだか小気味いい。そういう物語とは直接関係ない想像を思わずしちゃう余韻がガタカにはある。
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