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ガタカのIkTongRyoのレビュー・感想・評価

ガタカ(1997年製作の映画)
3.8
生まれた時点で人生が決まる。そんなことが果たしてあっていいのか?

親ガチャ、時代ガチャ、環境ガチャなどが叫ばれるガチャ(運)を呪う現代の資本主義社会。本作はそのガチャが管理された近未来を描くSF映画。

稼げない人間や生産性のない人間は淘汰されるべきで、必要のない生物として扱われる今の時代。「弱肉強食」という言葉が独り歩きしており、それに踊らされた人たちが酷い言葉で他人を侮辱し、軽蔑し、差別する。この26年前の映画は、そんな現代社会の人たちが大切にすべきテーマを扱っている。

優生思想が活発化し、生殖医療とヒト遺伝子工学が発達したディストピアを描く今作。

優れた脚本とサスペンスで遺伝子操作と遺伝的差別に関する道徳性、そして誤った科学の使いかたに対して果敢に挑戦している。

そのディストピア感を強調する撮影&ライティング、近未来的なロケーション、そして悲壮感を演出する音楽がものすごくマッチしている。

ちょっとマヌケ顔のイーサン・ホーク(眼鏡顔なんか特に)に対して、優秀そうなイギリス訛りのジュード・ロウをキャスティングしたのも説得力があった。

(実際、海外ではイギリス訛りのほうが知的で高い階級に聴こえるので、面接時に有利に働く傾向があるらしい)


残念なことに現代はデザイナーベビーの議論はそこまで珍しくもない時代に突入してしまった。中国でゲノム編集を用いた世界初のヒト受精卵の遺伝的操作を行った研究は物議を醸し、実際に遺伝子操作をして誕生させた双子の出産までこぎつけた。

だからこそ多くの人はこの『ガタカ』のように、徹底的に遺伝子が管理された社会が現実味を帯びており、恐怖する。生命への冒涜を無視し、一部の人間が神のように振る舞い、人間の誕生を管理する社会。

まるで『機動戦士ガンダムSEED』におけるコーディネイターとナチュラルのような階級社会だ。


派手ではないが、長年にわたり多くのファンを持つ『ガタカ』。

遺伝子的に劣等であっても、自分の夢のために挑み続ける主人公は、登場時からなりすましを行っている犯罪者だ。けれども観客はその犯罪者に共感し、最初から最後まで応援してしまう。それはやはり、心の中でこの「優生社会」がヴィランであり、法と社会が間違っていると自然と思ってしまうからだ。

警察も悪くないし、DNAブローカーも悪くないし、「適正者」のジェロームも悪くない。

やはり人間が人間を操作し、可能性や限界を決めつけてしまう優生社会こそが悪いのだ。

そもそも「優生」って誰がどの基準でどう判断するねん?

そんな社会でも最後に勝つのは、どんな人間でも生まれつきもつ「良心」と「道徳心」。その法をも超越した良心を、最後の最後で実践したレイマー医師のような人間こそが、救えないディストピア社会の希望なのだ。

今回は目黒シネマで特別上映がやっていたので、映画館での念願の鑑賞。映画館にいるということを忘れるほど没頭してしまった。

そして日曜の夜にも関わらずほぼ満席だったのは驚いた。しかも大半が若い人たち!

こうやって昔の映画をわざわざスクリーンで観る人たちがいることに、ものすごく嬉しくなった。そして『ガタカ』の人気ぶりを痛感した。
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