遺伝子操作によりエリートを選んで産める世界に、一切の操作なく生まれた主人公ヴィンセント。彼は生まれつき心臓にリスクがあり、近眼の可能性が高く、推定寿命は30.2歳だった。社会・制度から“妥当な差別”を受ける彼に対し、両親は今度こそ遺伝子操作を行った優れた弟を産んだが、それでヴィンセントに変化が起きる事はない。むしろ推測通り近眼になった。
しかし彼は遺伝子と身分を詐称し、エリート中のエリートしか目指せない宇宙飛行士の夢を叶えるために肉体・頭脳・精神を鍛え宇宙飛行士の席を手に入れるが……。
夢に対して才能が足りず、社会・制度はそれを盾に主人公を斥け、両親は夢を諦めて分相応を求めさせるが、執念がそうはさせない。
そんなヴィンセントが夢を目指す姿と、そんな彼と契約し遺伝子と身分を提供するジェロームとの友情を始めとした様々な人間関係が魅力的な本作。システムから与えられた身分・差別に対し覚悟と工夫で立ち向かう姿は痛快であるが、邪道を選んだ故の孤独感や悲壮感が消える事はなく、それらが混ざり合って抜群の見応えを提供してくれる。
時代を越えて残される価値のある傑作の一つ。
