イホウジン

アズミ・ハルコは行方不明のイホウジンのレビュー・感想・評価

アズミ・ハルコは行方不明(2016年製作の映画)
3.7
一貫したストーリーとして考えるとイマイチだが、部分だけピックアップして見るとなかなか面白い。

日本映画では珍しい、全編に渡りブラックユーモアが溢れた皮肉たっぷりの物語である。女性蔑視、欧米には敵わない日本の植民地性、「セーラー服」という概念についての観客への問いかけ、などなど基本的にジェンダー論にまつわる多様な問題が描かれている。考えてみると#metoo登場は今作のもう少し後の話なので、ギリギリではあるが先駆的な作品とも言えよう。この映画における反旗は暴力性を伴う自由であったが、これまでの女性差別の歴史を踏まえるとそれが男性への抗議という意味で軽薄とは言いきれないものもある。
そしてこの映画のもう一つの重要な要素は“芸術がエンタメに成り下がる様”の風刺である。カウンターカルチャーであったストリートアートが芸術として評価された先でエンタメとして消費されてしまうということは最近はよくあるが、今作ではこの状況も丁寧に描かれている。特に日本の場合、ここに「地域アート」も介入してくるが、ここで今作の舞台が地方都市であるという設定が効いてくる。終盤はこれと女性蔑視へのカタルシスが融合したカオスな状況になり面白い。

ただ、風刺を重視したからか、どうにもストーリーが弱い。エモーショナルな描写一辺倒になってしまって、肝心の映画としての中身が薄くなってしまったように感じる。時系列の錯綜も、意図的なものがあるというよりは単純に蒼井優と高畑充希を同時に観せたかっただけのように思えた。 また、“女子高生”暴力グループのシーンの全体的な茶番感が残念だった。エンディングも中途半端で謎。
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