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キングスマン:ゴールデン・サークルのnetfilmsのレビュー・感想・評価

4.1
 マシュー・ヴォーンの英国スパイ・アクション『キングスマン』シリーズ第二弾。バグパイプにより披露される『Country Road』の牧歌的で馴染みのメロディが突如、Princeの『Let's Go Crazy』に変わる。前作『キングスマン』でヴァレンタイン(サミュエル・L・ジャクソン)の人類抹殺計画から地球を救ったゲイリー・“エグジー”・アンウィン(タロン・エガートン)の日常は幸せな余韻に浸ることもない。前作で高級スポーツカーをアディダスのジャージですっ飛ばした悪童は、高級テーラー「サヴィル・ロウ」で仕立てられたフォーマルな黒のスーツでロンドン市内を爆走する。遠隔操作画面で繰り広げられるマーリン(マーク・ストロング)との二元中継にエグジーの代父であるハリー・ハート(コリン・ファース)の姿はない。糞尿まみれのタキシード・スーツからカジュアルなジャージ、そして黒の蝶ネクタイと黒い大きな襟をあしらった赤いスーツへ。今作では前作以上に男たちの衣装が次々に様変わりする。「マナーが人間を作るんだ」というハリーの教えに基づき、主人公はヒロインにとって相応しい理想の男「キングスマン」になろうと試みる。アナルSEXで結ばれた女との選択肢以外にもエグジーを想う女性の陰がちらつき、むしろこちらの方がお似合いじゃないかと余計な邪推をしたが、マシュー・ヴォーンの判断は余計な選択肢を間引きにかかる。そのリセットという名の合理的判断には賛否両論あるに違いない。

 今作で英国紳士たちの記号的な着こなしと対比されるのは、アメリカ・ケンタッキー州にあるバーボン蒸留所内にある秘密のスパイ組織「ステイツマン」である。ストームライダーを意識したLEEのヴィンテージ・デニム・ジャケットにカウボーイ・ハットで飾るミスター・テキーラ(チャニング・テイタム)やウェスタン・ヨークを取り入れたジャケットを着こなす男たちの記号的なあしらいは英国産スパイと対比的に示され、互いがコードネームで呼び合う様は真っ先にクエンティン・タランティーノの『レザボア・ドッグス』を想起させる。英語を公用語に持つ英国紳士と米国諜報員との図式的な対比はスコッチ・ウィスキーを嗜むお酒の好みにも現れる。ポピー(ジュリアン・ムーア)がカンボジアに建設した「ポピーランド」なる建物は、右側にボーリング場、左側に美容室、正面に赤を基調としたバーガーショップが併設され、過ぎ去りしアメリカの70年代を強烈に想起させる。ゴールデン・トライアングルならぬゴールデン・サークルと呼ばれるいかにもインチキ臭いメッキのような「ポピーランド」では、PTAの『ブギーナイツ』のように左右に伸びたプライベート空間が実にラグジュアリーに見えるが、そこで暮らすポピーはどこか寂しそうに見える。前作のスロー・モーションによる脳みそ破壊描写よりも数倍下品な人肉ハンバーガー、ベニーとジェットと言う名のロボット犬、『土曜の夜は僕の生きがい』や『ダニエル』、『ロケットマン』を惜しげも無く披露したエルトン・ジョンの怪演ぶりも光る。『007』シリーズさながらの中盤のイタリア・アルプスでの死闘、高速回転するゴンドラと落下する球体にアメコミ映画を出自に持つマシュー・ヴォーンの確固たる世界観が滲む。
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