喜連川風連

走れ、絶望に追いつかれない速さでの喜連川風連のレビュー・感想・評価

4.0
苦手なはずのオフビート映画でも、切実に訴えかけられる中川作品。

親友が死に、その足跡を辿るが最後までなぜ死んだのか分からない。

親友と主人公の間に深い関係性があったはずなのに、憎まれもせず、相談もされず自殺してしまった。

唯一の手がかりですら、ほとんど意味はなく、友人は絶望する。死すらよぎる絶望の中、見知らぬおじさんに牛すき焼きをご馳走になる主人公。

辛いときでも、食べてさえいれば生きていける。絶望に追いつかれても少し足を止めて休めばいい。そしてまたご飯を食べてもりもり働けばいい。映画はそう問いかけているようだった。

食堂のシーンでの主人公の顔の変わり方がいい。そんなちょっとした変化に気づいて、さりげなく飯を奢ってあげる先輩もカッコいい。

カメラは徹底的に人物から一定の距離を置き、どんな悲しい場面でも寄り添うことはない。カットも割られない。だが、それがかえって映画への深い没入を可能にしている。

台詞がなくとも、表情の一つ一つに刺さるものがあり、感情をあれこれ想像してしまう。

お風呂と夕日のシーンが印象的に並べられ、自分たちの日常とリンクしているように感じた。

走れ、絶望に追いつかれない速さで。
というタイトルにしていながら、走れないときは休めばいいさと言ってくれているようで、とても穏やかな気持ちになった。

空を飛べるようになった主人公と、飛べずに落ちた友人との間にあった溝はなんだったのだろう。今となっては誰にもわからない。
喜連川風連

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