くりふ

イングリッド・バーグマン 愛に生きた女優のくりふのレビュー・感想・評価

3.5
【レンズ越しの美獣】

何となく劇場行く気までは起こらず、レンタルにて。初めて見る映像がけっこうあって、驚きや発見、幾つかありました。

スクリーンで見られず惜しいと思ったのは、セルズニックに招かれハリウッドで撮ったカメラテスト映像。いわば表情メニュー一覧ですが見惚れてしまった。一流女優としての価値が一目瞭然で伝わりました。

基本、強欲で足ることを知らない人だったのだなあ、と思った。

初めに結婚した、いかにも優しそうな旦那さんを“抱いて”カメラを睨むような眼差しの、若き日の写真が出てきてちょっと驚いたが、本性がよく出ている気がした。

女優業にのめり込んだのは、幼い頃の現体験が始まりだったようですね。本作、父親を亡くすエピソードから始まりますが、カメラマンでもあった父に、幼い頃から撮られていたことは大きかったのでしょう。

カメラのレンズを通した世界に魅せられていたこと…初婚での長女、ピアさんが興味深い母親評を展開していて、頷いてしまった。

前半、初めの家族とのエピソードと、女優イングリッド・バーグマンができるまで…の経緯がとても面白かったです。

欧州に家族旅行をした際に撮った、自身撮影が好きだったイングリッドによる、ナチスの闊歩フィルム等も貴重でしょう。全般、ホームムービーはそうとう多く撮っていたようですね。…第三者がみても、面白くないものが多いけど(笑)。

後半、ロッセリーニの子供たちが登場してからはちょっと鼻白んだ。ピアさんと違って母親をベタ褒めするんですよね。

こちらは不倫から始まった家族で、当時ハリウッドからも干されるほど叩かれたから、そのドキュメンタリーともなれば、必要以上に擁護したくなるのもわかりますが、正直、子らの態度は不自然に思えました。

しかし最後を飾る『秋のソナタ』撮影エピソードは興味深いものでした。自身で表情のリハーサルをする様が、ハリウッドでのテスト映像と対になっていた。

深く、いい顔に成ったものだと感心しました。

マイケル・ナイマンの音楽には心解されますが、同じ旋律ばかりでちょっとしつこかったですね。

<2017.7.24記>
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