やーすけ

私の血に流れる血のやーすけのネタバレレビュー・内容・結末

私の血に流れる血(2015年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

同じイタリアの田舎町を舞台にしつつ前半は中世、後半は現代と時間が飛ぶ。前半は、カトリックの修道院を舞台に異端の疑いがかけられた修道女ベネデッタが登場する。後に同じ題材でバーホーベンがやったような露骨で押し付けがましい(そこが良い)やり方ではなく、厳しい信仰の下で暮らす人々の非常に窮屈な話し。ベネデッタが司教の兄を死に追いやったと憎む弟が修道院に着くところから始まる。彼女に対する滑稽で残酷な審問が目の前で繰り返される一方、信仰に篤いという姉妹も結局は欲求に勝てないことを知る司祭の弟。自由を求めるベネデッタを一度は救おうとするものの、審問がより厳しくなる中で耐えきれず村を後にする。川床に並んだ二つの牢の鍵は兄弟がひとつづつ残したものか。兄弟が鍵を使えなかったその足枷になったのは信仰だったのか。

後半は廃墟と化した修道院でひっそり暮らす吸血鬼が現れる。老いた吸血鬼が現代を俯瞰する構図が「伯爵」(2023年)と通じる。さすがに浮遊するシーンはないが古いベンツで夜の街に繰り出すシーンはやはりゾクゾクする面白みがある。だがこちらの吸血鬼はパワフルな「伯爵」の吸血鬼像とはずいぶん違って、文字通り牙が抜けかけ、時代を憂い歯医者で愚痴る。キリスト教の権威や信仰が薄らぎアンチキリストとしての自らの存在も薄れゆくあるのを悟っているかのよう。聖歌に安らぎを得るシーンも皮肉めいているし、若い女を追ううちに不死身のはずが生き絶えてしまう。信仰のない世界では吸血鬼も不死身ではいられないからだろう。
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