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正しい日 間違えた日のmaverickのレビュー・感想・評価

正しい日 間違えた日(2015年製作の映画)
4.5
2015年の韓国映画。ホン・サンス監督作であり、この後実生活でもパートナー関係となるキム・ミニとの初タッグ作。ロカルノ国際映画祭で、グランプリにあたる金豹賞を受賞した。


この作品をきっかけに不倫関係へと発展したホン・サンスとキム・ミニ。それを知った上で鑑賞すると何だか笑えてしまう。主演のチョン・ジェヨンが演じる役は監督そのもの。自身の体験を基にした話なのだろうし、賞賛として周りからかけられる言葉もそのまま使っているのだろう。自分自身すぎて恥ずかしくならないのかとさえ思った。主演のチョン・ジェヨンを通し、自分の言葉をキム・ミニに投げかけている。あまりにも露骨すぎて笑ってしまうほどだ。

正しい日 間違えた日として、2パターンの展開が用意されている。そのどちらにも味があり、人生って分からないものだなと思わせられる。前半パートは途中まで上手く行くも、ふとしたことでそれが壊れてしまう展開。あそこでああしなければと、後になって後悔は出来る。でもその時その時で最善の行動を取ることは不可能。上手く行く時って、それこそ奇跡的な展開でそうなるもの。間違っているように見えて、実はそれが正しい選択の時もある。人によって受け取り方も違うし、その時ごとにそれも変化する。最善の選択を予測することなんて出来ないわけだ。後半パートは正にそうで、間違ったように見えてそれが上手く行く。建前ではなく、本音で話すことが彼女には嬉しかったのだろう。

チョン・ジェヨンもキム・ミニも、自然体な演技が素晴らしい。お酒が入った時の演技がこれまた自然で、緩くなっていろいろ心の内が漏れてしまっている状態なのがよく分かる。実際にお酒が入っての演技だとしても、その状態で演出をしっかりこなせるのが驚きだ。二人とも役者ではなく、ただの男女として作品上に存在している。『グエムル-漢江の怪物-』『スノーピアサー』のコ・アソンも出演しているが、ちょっと可愛いスタッフさんという印象。インディーズ的な作品性に、皆がぴたりとはまっている。それを演出し、打ち出しているのが監督というわけだ。日常にある人生の味わい深さというものを巧みに表現している。これこそがホン・サンス監督の素晴らしさ。さすがである。

最後は胸に熱い物がこみ上げてくる。不倫と言われれば確かにそうだ。でも理屈ではなく、互いに惹かれ合う存在なのが二人からは感じ取れる。例え打算的でも、それも人間じゃないか。ほんの短い間でも相手に心を許す瞬間が人生の中にはある。そういうものだと監督は分かっているのだ。監督が当事者だからというより、誰もが人生においてそんな経験を一度や二度はするものだと分かっている。だからこそ、この監督の作品は多くの人の心を掴むというわけだ。キム・ミニも本当に魅力的な人だと感じた。『お嬢さん』の時よりも何倍も魅力的。監督も彼女と出会い、運命を感じたのだろう。それが今となっては理解出来る。他人があれこれ批難しても仕方ない。彼にとって彼女は特別な存在だったのだ。


監督自身のスキャンダルがちらついて始めの内こそ色眼鏡で鑑賞してしまったが、終えてみればさすがの才能ぶりに思わず感嘆してしまった。傑作である。
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