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水戸黄門 天下の副将軍のkuronoriのレビュー・感想・評価

水戸黄門 天下の副将軍(1959年製作の映画)
3.8
水戸黄門です。
えー、水戸黄門漫遊記は、講談で幕末には成立していたそうです。この頃はお供は俳人で、正体を表す時には詠んだ句に水戸光圀が使う俳号を書き入れる…という形だったようです。
お供が助さん格さんになったのが明治の頃。
サイレント映画初期には、目玉の松ちゃんこと尾上松之助が何本も撮ってます。
その後、日活と大映で大河内傳次郎。東宝が徳川夢声。東映で市川右太衛門も演じてます。
そして戦後、東映のB級作品扱いで月形龍之介の水戸黄門漫遊記は始まります。
…で、水戸黄門といえば月形龍之介と言われる人気を博すわけです。

閑話休題。
本作はそんな月形黄門の最高傑作と呼び声高い一品です。
…とはいいつつも…と覚悟して観たのですが、案に相違してなかなか楽しい。
月形龍之介の御老公は、旅の隠居老人に扮した時にも威厳バリバリ。黙って座っていてもこの人ホントに町人?と訊きたくなるような厳しさが漂います。これが対比的に他のキャスト達の軽妙さを際立たせているのだと思います。
東千代之介の助さんと、里見浩太朗の格さんは若くて細くて二枚目全盛の頃。洒脱です。うっかり八兵衛が居なくても大丈夫です。格さんは歌います。助さんは踊り、飲み代が払えず宿場女郎の娘に結婚の空約束をして誤魔化そうとします。
喜んで着いてきちゃう宿場女郎の田舎娘が丘さとみ。丘さとみの生歌が聞けます。微妙に外れてるのは田舎娘で芸事が未熟という演出なんでしょうか?自分で吹き出しながら歌ってます。あの御老公の両手を持って楽しげにブンブン振ります。いや、個人的に東映城のお姫様方のなかでも丘さとみは別格ですね(笑)。
御目付役に番頭に扮して着いて来るのが大河内傳次郎演じる水戸家側用人の大田原伝兵衛。例の特徴のある台詞回しがなんとはなしにコミカルで、野暮で融通は利かないが誠実そうないい味出しています。大河内は東映に移る時に「うちでは今までのようには行きませんよ」と釘を差されて「それで結構です。」と以後バイプレーヤーに徹した人です。
さらに、なんだか妙に気が短くて調子がいい江戸っ子の流れ板に大川橋蔵。
橋蔵と出会う度に喧嘩になる大阪商人に進藤英太郎。
光圀の息子で気が触れたと評判の高松藩主松平頼常に中村錦之助。
頼常を案じる腰元の鞆江に美空ひばり。因みに主要キャストの中で唯一の…いや、ネタバレになるか。
この時代の作品としてはテンポが早く、飽きさせずに話しを引っ張っていきます。(なんじゃそれ?)なところもあまり無く、大立ち回りもたっぷり見せて、滞りなく大団円を迎えます(笑)。
いや、これはそれでいいです。私はどっちかというとアンチ黄門なのですが、これは好きです。今ではもう作れませんよ。

因みに、例の印籠を出すクライマックス。あれはテレビの方の東野英治郎版の第2シーズンから試行錯誤がはじまって、第3シーズンで定着したんだそうです。
つまり、杉良太郎が助さんだった頃にはまだちゃんと確立して無かったわけです。
…思ったより最近の演出なんだ!
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