LalaーMukuーMerry

バジュランギおじさんと、小さな迷子のLalaーMukuーMerryのレビュー・感想・評価

4.7
あ~、最後のとこで感涙・号泣してもうた。私の一番弱い、ちっちゃくて可愛い女の子が主人公のインド映画。明るくて、バカがつくほど真っすぐな青年パワンが、デリーの街で出会った言葉が話せない6歳の迷子の少女のために、親を探しだして故郷に送り届けると、神に誓ったその夢を叶えるための奮闘記。

でも少女はパキスタン人だった・・・

小さな善人のささやかなお話ではないです。インド人とパキスタン人、同じ言葉を話し、宗教が違うだけでほとんど同じ民族的ルーツをもっているにもかかわらず、その間にある壁や対立のせいで、パワンと少女の夢は何度も何度も妨げられる。パスポートだのビザだのと杓子定規なルールのせいで、なんでこんなまっとうなことが認められないのか? そのアホらしさに気づいてほしい、争いごとに大きな声でNOといおう!という、政治的メッセージがしっかり込められた、とても感動的なクライマックスでした。
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前半のインドパートではいかにもな感じの歌と踊り、パワンの半生とか歌と踊りの脇道長いぞ!と思う所もあったが、ムスリムとヒンドゥーの生活習慣の違いアルアルが陽気な感じで描かれて、それなりにおもしろい。
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ところが、後半のパキスタンパートは、国境警備隊の追跡から逃げながらの故郷探しとハラハラの連続(といってもユーモラスは忘れない)。始めは二人をスパイと勘違いしたニュース記者が強力な助っ人になってくれて、いよいよ少女の故郷に近づいてクライマックスへ・・・
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~背景など ??~
約2億年前、超大陸パンゲアが北(ローラシア大陸)と南(ゴンドワナ大陸)に分裂を始めた頃、今のインドは南のゴンドワナ大陸の一部だった。そのゴンドワナ大陸がさらに細かく分裂して、アフリカ大陸南東部(とマダガスカル)から分離したインド大陸は、インド洋を北上し、現在のユーラシア大陸(といっても当時は浅い海底)に衝突して(約5000万年前)、ユーラシア大陸地殻の下にむりやり潜り込み、浅海は隆起してカラコルム山脈とヒマラヤ山脈、その北側にはチベット高原ができた。
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インドはひし形の形をしていて北の頂点に当たる部分がカシミール。ここにはカラコルム山脈(8000m級)があって、世界の屋根と呼ばれる(世界第2の山 K2はここにある)。ここから流れ出した川はインダス川となってパキスタンを流れインド洋にそそぐ。その中下流域ではかつてインダス文明が栄えたが、今は川の東部には砂漠地帯が広がる。
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イギリスがインドを植民地支配していた頃、イギリスは多くの(約600)藩王国の王を利用して分割統治をしていた。カシミール地方はジャンムー・カシミール藩王国という1つの藩王国の支配地域だった。第2次大戦後インドがイギリスから独立するとき、ガンジーは宗教を超えた一つの国家を望んだが、ジンナーらの宗教の違いによる二民族論に押されて、インドとパキスタンという2つの国が生まれた(1947)。
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各藩王国はインドかパキスタンのどちらかに属すことになった。カシミールは住民の8割はムスリムだったが、藩王自身はヒンドゥー教だったのでどちらの国に属すべきか躊躇していたところへ、パキスタン軍が侵攻してきたので、インドへの帰属を表明しインドに派兵を要請した。こうして第1次印パ戦争が始まり、インドとパキスタンは独立と同時に、カシミール問題によって戦争相手国の関係になった。
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現在、カシミールは、インド、パキスタンの他に中国も入って(チベット仏教徒の存在を口実に)、3国がそれぞれ実効支配する三つの地域に別れている。
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険しい高山地帯のカシミールの暫定国境線はとても複雑だ。決して尾根だけではない、支尾根に入って、いつのまにか川が国境線になっていたりと、人間が無理やり引いた国境線の不自然さに不条理を感じる。周囲の美しい風景のことを思うとその感覚はなおさら。