秋日和

大恋愛の秋日和のレビュー・感想・評価

大恋愛(1969年製作の映画)
4.0
楽しい嘘をつくのがコメディなのか、嘘のつき方が楽しいのがコメディなのかは果たして分からないけれど、ピエール・エテックスが撮った『大恋愛』は見事に嘘=映画をつき通した、魅力いっぱいのコメディだ。

「カットが変れば世界が変わる」だなんていう映画の原則を言い訳に、主人公の男=エテックスは結婚式の最中でさえも浮気な妄想を膨らませ、そしてその妄想は時にフレーム外にも広がってゆくのが面白い。
印象的だったのはとある妄想(或いは夢の)開始の合図がベッドが「ズレ」ることによって告げられたシーン。それはきっと同時に夫婦間の気持ちの「ズレ」をも無言で告白していて、笑える一方ちょっぴり切ない。……そもそも最初に主人公の奥さんが旦那に怒った理由も、近所の人たちの伝言ゲームによる事実との「ズレ」から起きていたということからも分かる通り、きっとエテックスは「ズレ」ることに対して敏感だ。認識の「ズレ」だとかタイミングの「ズレ」ってコメディの王道演出だけれど、この映画みたいに少し違う意味合いでの「ズレ」を合間合間に放り込むのも面白いなーと思ったり。

燃える恋と鮮やかな赤(コートと車)。冷めた愛とくすんだ赤(写真立て諸々)。若い女と若くない妻。その間で揺れ動いだり浮足立ったりする男の姿はあまりにも滑稽で、少しハラハラもさせられるけれど、そんな感情を上手にサンドイッチしてエテックスは映画を終わらせる。ポップでキュートなフレンチ・コメディ。彼女が「愛してる」と書いた砂をエテックスがサッとすくってポケットに押し込むシーンなんて最高だ。
秋日和

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