ピエール・エテックス監督作品。
エテックスのフランスらしい、洒落た色遣いを堪能出来るコメディである。
エテックスの笑いは、師匠にあたるジャック・タチとも異なる。
タチはナンセンスを幾重にも重ね、ドライに社会を風刺したが、エテックスのそれはセンチメンタルな人情喜劇の潤滑油として機能させている。
本作は妻との安定した関係の中で、刺激を求める男性心理をカリカチュアした、所謂バーレスク物であるが、タチを思わせる小物を使ったユーモアが秀逸で、バーレスク物に付き物のトゲが見当たらない。
この点、エテックスのバランス感覚には感服する。
反面、この風刺のトゲが見当たらない為、全般的に平坦である点にはやや不満が残る。
特に前半部分に関しては冗長な感が強く、後半妻と秘書との間で揺れる心情を描く割りには前半で妻を軽く扱っている様に見受けられる。
「妻と義母の親密さ」の描写よりも、「妻と夫(エテックス)」の関係描写、若しくは翻案して「夫と義父」との関係描写に変更された方が関係性がすっきりする様に思われる。
仏国らしい、鮮烈な色彩と柔らかな色味とを交えたコントラストの良い、美しく愉しい作品であるが、上記理由よりこの評価とする。