もはや可愛ささえ感じられる、おじさんの妄想暴走映画。
妻との変わり映えしない結婚生活にマンネリを感じていた中年の男の目の前に突然美少女が現れたら…?
なんとか彼女とお近づきになれないかと、彼はありとあらゆる方法を考えるが、彼女と一緒にいる妄想がはかどるばかり。
あまりに非現実的な妄想が面白くてかわいくて、頬がゆるみっぱなしだった。
登場人物の感情や心情が直喩的に表される。それがこの作品をコメディたらしめている主な要素だろう。
直喩表現というのは、彼らの想像や妄想が現実にそのまま起こってるかのように、地のテンションのまま提示されるということである。例えば、少女との年齢差を感じるピエールは、実際よりもずっと歳をとった風貌にその時だけ見える演出などである。
また、夢と現実が地続きであるように見せる。夢や想像の内のことが、目の前に起こっていることに続いてるように見せるということだ。
例えば、若い妻がいる友人がピエールにアドバイスしたことを、回想のなかで友人がピエール役を演じている。
あまりに現実的ではないアドバイスを、友人は回想のなかで大げさなノリでやってのける。
そういった「現実のような非現実」のシーンのなかでも、特に印象深いシーンは、ベッドに乗って「走り出す」シーンである。
家で眠りにつくはずのベッドが動き出し、寝室を抜け出してどこかの田舎道を駆けていく。そこには、他の人たちもパジャマのまま、まるで車のようにベッドに乗っている。さらには追突事故を起こしたり渋滞になっている。
そんななか、ピエールのベッドはスルスルと抜けて進み続ける。彼女も彼のベッドに乗り込んで、一緒に抱き合いながらベッドはゆっくりとどこまでも進んでいくのだ。
ピエールの妄想はもちろん面白いが、主要登場人物以外のキャラクターも個性豊かでこの作品の大きな魅力となっている。
噂好きのおばあちゃんたちはいつもピエールと友人の話に耳を立てている。
行きつけのカフェの店員の男性はピエールたちの奇行(?)に気を取られ、いつも同じ常連客のビールを見ずにさげることを繰り返すのだ。
ロマンティックだけど残酷なほどに現実を照らし出す。
ピエールの行動と彼への周囲の反応は、皮肉的でリズミカルで鮮やかである。