ジャン黒糖

ドリスの恋愛妄想適齢期のジャン黒糖のレビュー・感想・評価

ドリスの恋愛妄想適齢期(2015年製作の映画)
3.4
マイケル・ショウォルター監督最新作『アイデア・オブ・ユー』がprime videoで配信開始したこのタイミングで、監督作を観てみようと思い本作鑑賞。
本作も最新作同様、年の差恋愛を描いているけれどこちらは60代女性の一方的な妄想恋愛で、おかしくも痛々しい、可愛らしくも痛々しい、絶妙なさじ加減の映画だった!

【物語】
ニューヨーク州のスタテン島で実家暮らしをしていたドリス。
母が高齢で亡くなり、介護が無くなったという建前と、ドリス本人の過剰な収集癖を辞めてもらいたいという本音を理由に、本土への引越しを勧める弟家族。

ある日、職場にLAから配属してきたジョンにドリスは一目惚れしてしまうのだが、60代にもなって若々しくアプローチする術もない。

親友の孫娘の協力による恋愛の手ほどき、SNS上のサーチなど、ストーカー紛いの行為で意外なことに自然とジョンと親しくなっていき、次第に浮かれていくドリスだったが…。

【感想】
最新作『アイデア・オブ・ユー』でも年の差恋愛を描いていたマイケル・ショウォルター監督。
年の差恋愛を描いた映画自体は別に珍しくないけれど、この手の恋愛映画を描くとき、如何に年の差のハードルを乗り越えて自然と恋愛しているよう見せるか、が当たり前のことながら難しい部分だったりする訳で、これが上手くないと「演じてる女優が年増にしか見えず無理がある」と言われてしまう始末だったり。

ただ、その点本作は主演のサリー・フィールド演じるドリスは、良い意味で「無理がある」。
ジョンを好きになることでどんどん可愛らしくなっていき、浮き足だってくると目も当てられないほど痛々しくなっていくこの落差のバランスが絶妙で。
途中マジでジョンと恋に落ちてもおかしくない…?いやいやおかしい…!と妄想から現実へ我に帰らせる落差の見せ方が良かった!

ヘッドホンでジョンが好きなアーティストを聴きながらチョコを手も使わず食べながらバランスボールで跳ねながらキーボード叩いて仕事している姿とか、やっぱちょっと変わってるよアンタ!ってなるこのさじ加減!笑

彼女はずっと痛い勘違いをしているけれど、その痛さに鈍感であれば鈍感であるほど人生好転する人って意外とたくさんいる訳で。


そんなドリスに一方的に惚れられるジョンを演じるマックス・グリーンフィールドも、あまりの年の差に、まさか惚れられているとは想像も付かないながら、友達としては良好な関係を築こうとしている姿がすれ違いコント的でもありながら、自然の彼の魅力として良かった。

そんな2人の関係を見ては冷静になれ、とドリスに諭す親友ロズを演じるタイン・デイリーもまた、熱が入り過ぎてしまうドリスに対し、本音でぶつかるまさに親友として、ドリスの暴走が頂天に達したときも受け入れる姿に、映画で描かれている時間以上の年月を2人過ごしてきた背景を感じさせてくれる。

このように、マイケル・ショウォルター監督、役者の演技で関係性の機微や時間の経過を感じさせる演出が上手いなぁと思った。



妄想と現実の間で一喜一憂していたドリスの収集癖も、理由は特に明言されないが、おそらくはスタテン島という場所、母の介護、によって彼女自身失ってきた機会は、若かりし頃の婚約然り、弟のような実業へのチャレンジ然り、多分にあったであろうことが伺える。
だからこそ、彼女はこの場所で生きるという自己肯定感を得たかったのかもしれない。
(ちなみに彼女が毎日スタテン島から職場へ出勤する際に乗る船は、『スパイダーマン/ホーム・カミング』でスパイダーマンが止めるのに必死だったあの真っ二つに割れた船でおなじみ!笑)

この自己肯定感を得るために、彼女はとにかく空間を埋めるように物を収集しては捨てられずにいたんだろうな、と自分は思った。
そしてそれは職場も然りで、ジョンをはじめ彼女のいる職場は30〜40代を中心に活躍していて、ドリスのような60代はおろか、50代らしき人も見当たらない。

これら、捨てられない物や関係、場所を見つめ直したドリスは最後にどこに向かうか。
序盤のジョンとの妄想エレベーターシーンを想起させるラスト10秒、この切れ味が最高だった。

面白い映画撮りますなぁ!!
ジャン黒糖

ジャン黒糖