わたがし

ヒーローマニア 生活のわたがしのレビュー・感想・評価

ヒーローマニア 生活(2016年製作の映画)
5.0
 こんなにも心の底から共感のできたヒーロー映画はそうそうにない。僕はこの年齢になった今も「良い人を悪い人から救いたい」とか「世界をほんの少しでも良くしたい」みたいなことは全く思わないし、小さい頃からアンパンマンよりもバイキンマンに肩入れしてアニメを観る子供だった。なのでヒーロー映画の中で主人公が(たとえインテリだろうがヘタレだろうが)「世界を救わないと」などと言って自分の正義感を振りかざし始めた瞬間「ああ…そういう系の人か」と思ってそのキャラクターからは心が離れてしまう。
 しかし、この映画の主人公は違う。それはそれはもう生臭いほどに人間臭くて、どうしようもない変態で、街を守るなどと言いながら実際のところ自分の中では全く別の欲求を満たしていたりする。そんな主人公が仲間と団結し、仲間から疎外され、再び結束していく王道の物語。主人公があまりに自分すぎて途中で何度も泣いてしまう。
 そもそもこの世界に絶対的な「正義」なんかもちろん存在しなくて、よくヒーローが吐く「俺が世界を救う」という台詞は、悪役の吐く「俺が世界の支配者になる」という台詞とほとんど何も変わらない。ヒーローは本当に世界なんかのために戦っているのか?単に自分のエゴを満たすためだけのために戦っているんじゃないか?そんな際どいテーマまでずんずん(しかもコメディタッチで)手加減なしに描いてくるアグレッシブ精神に背筋が凍りそうになる。
 そして何よりこの作品が好きなのは、タイトルどおりヒーローたちの「生活」をちゃんと描いているところ。途中途中の生活はもちろんのこと、偽物のヒーローから本物のヒーローになった後の「生活」はどのように変容したのか。ほとんどのヒーロー映画1作目が「主人公がヒーローになっておしまい」の中、この映画はヒーローになった後(つまり我々観客が映画を観て、映画館を出た直後に直面する現実)まで1本の映画の中で描いている。それでこそ「映画」は初めて「ただの嘘」じゃなくて「寓話」になる。だから観終えた後味がとてつもなく気持ち良い。
 そして小松菜奈がすごい!小松菜奈!!小松菜奈が!!すごい!!自分が今まで観てきた小松菜奈の中で1番綺麗で、かわいらしくて、性的に魅力的で、存在感抜群の小松菜奈。今までオファーが来なかった系の役を目一杯に楽しみながら演じている雰囲気がスクリーン越しにむんむん伝わってくる。ジャージ眼鏡三つ編みのダサ小松菜奈、ヒーロー衣装で華麗にポーズを決めて美味しいところ全部持っていってしまう小松菜奈、秘書スーツで社長を誘惑する小松菜奈……ちょっとでもスベれば即バカっぽくなってしまうコメディ芝居も存在感だけでモノにしてしまうし、小松菜奈がどうすれば小松菜奈に見えるのか・見えないのかまで自ら把握しているような「小松菜奈演技」と「非小松菜奈演技」のコントラストもまるで本人のお顔のように美しい。
 とにかく小松菜奈が大好きだし、この映画もとてつもなく好き。キックアスを参考にしたと監督が言っていたけれど、確かにキックアスを連想させる演出やら音楽やらがたくさんあって、でもそれがただのパロディにはなっていなくて「アメリカがこうなら日本はこうだ!」という強い強い強い意志をちゃんと感じる。世界を救ったからといって全てが解決するわけじゃない。それでも新たな敵は必ず栄えるし、僕らにも引き続き「生活」がある。一体いつになったら僕たち本当のヒーローになれるの!早くマニアからプロになりたい!ヒーローマニア!また来週!お楽しみに!
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