emily

インモラル・ガール 秘密と嘘のemilyのレビュー・感想・評価

3.8
大学生の四ヴァンは親友のミランと一緒にナンパに明け暮れ、成功し
た数を競い合っていた。そんなある日マヤという女性に出会い、互いに
束縛しあわない関係を提案していたのに、重ねるデートにより、会わな
い時間にSNSを見ることで彼女のことが気になり始める。やがてそれは嫉
妬に変化していき、彼を追い込んでいく。

 目に見える現実と、SNSを通して先行していく現実との狭間にすっぽり
浸かって翻弄されていく男の姿を、滑稽にじわりじわりと追いつめられ
ていく様を淡々と描く。そこに交差する不穏な音、普段何気なく耳にし
ている音がここでは効果的に不穏な空気づくりに効果的に働いている。
 
 対照的な建物の室内、マヤの部屋には生活臭がしっかり漂い、そこの
空間だけが現実のように思わせる。しかし彼女の部屋は年齢にそぐわな
く、少女的であり、それもまた伏線となりラストへつながっていく。
それとは対照的にヴァンの学校や訪れるカフェなどはスタイリッシュで現
実味がない。それらの対照的な描写が、現実とSNSの世界と見事に
交差し、後半からはミステリアスな要素が渦巻いていき、目に見える現実のはざまを行く、作り上げられた幻覚のようなものが覆いかぶさっていくの
だ。

 ”テントウムシ”と記された場所、廃墟だらけの建物や黒のBMW・・す
べてが現実でありながら、全く現実感がない。彼の中でマヤとのつなが
りを見出すことができないのだ。謎は謎のまま、切り貼りされた情報が
飛び交い、そこからヴァンは空白を埋めていくのだろう。近づけそうで
近づけない。届きそうで届かない。歯がゆい彼女との距離感は嫉妬から
執着へ、最後にたたきつける情報”Panama”。劇中で見た雪景色のよう
な綿毛が幻想的に舞い、現実とも空想とも言える世界へ飛んでいく。

 ただ二人で過ごした日々、一緒にいたあの日々だけはリアルに温かく響き
わたる。情報が錯綜する現代社会が生み出した隙間が生み出す
大きな影。本当に見ないといけない物は、情報をすべてリセットしたときに見えてくるのかもしれない。
emily

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