なっこ

海賊とよばれた男のなっこのレビュー・感想・評価

海賊とよばれた男(2016年製作の映画)
2.1
これ程までに女性性の視点を欠いた物語はとても珍しく、かといって押し付けがましい程の男性性ばかりという訳ではなく、どこかサラッとしたヒーロー像。

労働の美しさ、
漢らしさ、
商魂、
日本人らしさ、

そういうものが枠に入れられて高々と掲げてあるだけで、でもきっとその奥に、なにか実の詰まったものがあるはずなのだと、期待して見ているうちにエンディングを迎えてしまった。サラサラと。

私の胸には先妻のゆきの孤独が抜けないトゲのように突き刺さったままだ。彼女の夫に宛てた手紙の内容が頭から離れない。
彼女の存在は、ワンマンな彼の負の部分。それは孤独、大切な人とのすれ違い。

カウントはしていないが、どのシーンにもほとんど男性ばかりで女性は数えるほどしか登場しない。
そして、店主だけでなく店員の家庭での様子も全く描かれない。職業人としてだけでなく、家庭人としての顔もあったであろうに。父として夫として、または誰かの恋人としての顔が。
職場と戦場、男がヒーローであらねばならない現場ばかりが描かれる。

“職場ではリーダーシップを発揮して活躍して家でも良き夫で良き父親、家事育児にも積極的”、なんてのは現代の理想であって、家父長制の時代にそんなことは望めない。

バランスを欠いたままでヒーローは駆け抜けていかねばならない、そんな時代だったのだと、言いたいのであれば確かにそうなのであろう。

弱さは、それほど受け入れ難いのだ。

強くあれと生きるのは何のためか、
命をかけて守り抜いた先に何を望むのか、

その答えがラストシーンなのだろうか。
心に残る言葉はたくさんあったはずなのに、なぜかその奥底にあるはずの思考の一貫性が見出せない。親分肌と言われているけれど具体的なエピソードに欠ける。身内には優しいが商売敵には非常に冷淡。だからこそ、この人物が押し売りや博打に近い商売をしているように見えてしまう。

“海賊”と呼ばれることが、誇るべきものなのかどうか、それさえも私には判断がつかなかった。
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