Jeffrey

今日から明日へのJeffreyのレビュー・感想・評価

今日から明日へ(1996年製作の映画)
3.5
「今日から明日へ」

冒頭、ブルジョワ夫婦のすれ違い。滑稽な室内劇、現代的な流行、教訓、指揮、演奏、フランクフルト放送交曲楽団。バリトン、ソプラノ、上映、曲の録音。今、シェーンベルクによる一幕の歌劇が始まる…本作は1996年に作曲アーノルト・シェーンベルク、そして台本マックス・ブロンド(1929年)の幕の歌劇を監督ダニエル・ユイレとジャン=マリー・ストローブが手掛けた作品で、この度DVDを購入して初鑑賞したが素晴らしかった。ドイツとフランスの合作映画で、35ミリのモノクロかつ62分と言う非常に見やすい映画である。

この作品は史上初の12音技法による上演稀な歌劇を完璧に映画化したとされ、監督自身の監修したオリジナルマスター使用で、このたび人生初の鑑賞した。かなり昔に都内の劇場で一斉にストローブ=ユイレ監督の上映をしていたが、行けずにようやく見れた。台本はシェーンベルク夫人(マックス・ブロンダの名義)によって書かれているそうだ。



まず、この作品は冒頭の2カットの後に62カットに分割されたオペラの上映場面で成り立っている。劇場内部の全体像をパンでとらえた冒頭カットに続き、2番目のカットは撮影地フランクフルトの路上と落書きされた壁を約数分間固定カメラで写す。冒頭、複数の音楽家が楽器を奏でる中、カメラは巨大なコンサートホール(劇場)を見渡すように映す。行ったり来たりを繰り返して改めて再度演奏する人々を捉える。


そして画面上は暗くなり、文字が浮かび上がってくる。続いて、カットは壁に落書きされているショットになる。ここでは木の枝が風に揺られる描写を映し、外の人工的な音を観客に聞かせる(上記でも述べたように、この場面では2分間ほどずっと壁が映される)。

続いて、一室に男女が扉から入ってくる。男女の動きに合わせてカメラも動き始める。そして男性が歌を歌い始める(この2人はどうやら夫婦のようだ)。そして続いて女性が歌を歌う(途中で女性は扉から出て行き、画面の中では夫1人だけになる)。そして歌っている内容(字幕を読む限り)2人は夫婦喧嘩をしているようだ。

それは歌だけではなく実際に役者による芝居の身動きでも見受けられ始める。

そしてこの作品のほとんどは室内劇になるのだが、最初の方で野外描写を映す。そこには自然の音、風になびく木の音が奏でる音が記録されていく。それにしてもこの映画に出てくる妻役の女優の芝居が素晴らしい。椅子に座っては立ちの繰り返し…。

本作の指揮を演じたミヒャエル・ギーレンが素晴らしかった。まず本作は時事オペラかと言う問題がある。それはシェーンベルクの抗議であり、時事オペラの意匠を借りたアンチ時事オペラと言う含みがこの作品にはあるように感じる。この作品はオペラを12音技法で描くことが初めて可能になったものと説明されている。


この作品の画期的なところは音楽は迫りくる危険、それから恐怖と破局の3つの部分から構成されて、表現主義的ともいえる劇的な不安の緊張を与えると言うことである。それにしても監督のナレーションを含む彼の独創的な音楽の物語性を見事に表現した1本であると感じた。


これが映画音楽と言うものなのかもしれない。


もっと音楽に精通していればなおさら楽しめると思う。ミニマルだ。
Jeffrey

Jeffrey