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カルテル・ランドのmovieJackのレビュー・感想・評価

カルテル・ランド(2015年製作の映画)
4.0
「皆殺しのバラッド メキシコ麻薬戦争の光と闇」と「ボーダーライン」は観賞済で
今作は町山智浩さんの「たまむすび」podcastでの紹介により楽しみに観賞

警察・軍隊が全く対応せず
麻薬売買はもちろん殺人・誘拐・略奪・強姦等
街を支配し一般市民へも傍若無人な行為を行うメキシコ麻薬カルテルに対抗するために立ち上がった自警団に密着したドキュメンタリー

発足当初は正義感に燃え
各地の市民からも絶大な信頼を得て
カルテルから次々と街を奪還し
出動してきた高圧的な態度の軍隊を
市民と共に取り囲み尻尾を巻いて帰らせる一連のシーンは感動的でさえあった

しかし組織が拡大して権力を握ると
どちらがカルテルか自警団か解らない程の行為の連続で
リアルな白昼の銃撃戦の迫力はドキュメンタリーならではの臨場感

自警団はカルテルの売人宅を急襲し制圧後
「前に盗られたから…」と 口々に言い訳めいた独り言の後
薬物・現金・貴金属・衣服まで略奪していく姿はただのギャングにしか見えなくなる…

その後も自警団はエスカレートし
警察関係者にも拷問紛いの尋問を行うほど……
発砲した疑いだけの男性を家族の居る前で拘束するのだが
男性の娘(小学校6年位)が泣き叫び父親から離れようとせず
母親が話に行くだけなので心配が無いとなだめるも仕舞いには
「連れて行くならここで私はのどをかっ切る」とまで言い泣き崩れる娘…
こんな幼い子供がそこまで言うということは
今まで連れて行かれて帰らない人達を多く見てきたのだろう
娘を持つ父としては観ていられない程の悲しさであった

今まで全員良い人って映画はよく観たが全員裏が有りそうって映画は初めて…
主人公の一人であるリーダーの医師が唯一の善人と思えたので現在の処遇には同情するが
支援者が周りで見守る車の中で
モデル級の美女にカメラ前である契約を持ち掛けることに驚いた(羨まし過ぎる…)
このシーンを使う監督も監督で少し悪意も感じられたが全てを晒す事に意味があるのだろう

オープニングとラストに全く同じ映像が流れ
なぜ同じシーンが……

からの~~~

劇中に語られていた事が実際に映像として提示されていた事に愕然とする
それも冒頭から…

救いようの無いメキシコの現実を突き付ける監督の手腕にも感心するが
劇中で氏名が表示されるのは重要人物の数人であり
あの体格・銃の持ち方と現場リーダー的立ち振舞いからして青シャツは多分アイツですね……

メキシコが異常なのか…
これが世界の現実で常識なのか…
日本が平和過ぎるのか…
解らなくなる倫理感

人間の本質・富・権力・性・貧困・復讐・命等について
これでもかと見せつけて深く考えさせ
作られたドラマではないメキシコの現実を体験できる作品

終始日本とのギャップに驚くが人間(男)の本能のままに生きる姿は強烈で
日本男性が持ち合わせていないギラギラした秩序なんて皆無の世界に生きている彼らが少し羨ましく魅力的にも感じた

しかし自警団への莫大な資金はどこから出てるのか解らなかった…

あとメキシコにはモデル級美女からお誘いが有っても絶対に行きたくありません(笑)
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