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The Chant of Jimmie BlacksmithのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

The Chant of Jimmie Blacksmith(1978年製作の映画)
3.0
No.653[虐げられたアボリジニの復讐とアイデンティティ] 60点

フレッド・スケピシ監督三作目になる本作品は、ジェニファー・ケント『ナイチンゲール』に影響を与えているであろう先住民への搾取とそれに対する怒りの物語である。白人の父親とアボリジニの母親を持つジミ・ブラックスミスは牧師の里親に育てられ、"文明化"された少年は"白人"のように成人してもアボリジニであることは変わらず、どっち付かずになってしまったアイデンティティに苦しみ続ける。アボリジニの同僚と道端で泥酔して逮捕されても一人だけ先に釈放される時は"白人"として、労働力として契約やノルマや給料をちょろまかされる時は"アボリジニ"として、彼は相手側の都合の良いように搾取される。そして、養父の下で学校に通い、白人のような言葉を話すジミの中でも、どちらにも属せない思いが膨れ上がる。ジミは白人女性と結婚することで落ち着く。彼女は明らかに白人の子供を産んだが、ジミはそれを受け入れざるを得なかった。

本作品のハイライトの一つは、散々苛め抜かれたジミが、その矛先を家族に向けられた時に爆発した、一連の虐殺シーンだろう。男が居ない間にニュービー家の女性陣を脅しに行ったら、勢い余って殺してしまって、暴れる女性陣が棚にぶつかり机にぶつかり、牛乳に血が飛んで卵が(不自然に)割れ、ガチャガチャと音を立てながら日常が崩壊していく様は脳裏に焼き付いて離れない。それによって白人たちに追われるようになったジミ一行の旅路は、ジョフ・マーフィ『UTU/復讐』や上記『ナイチンゲール』の様相を呈している。しかし、復讐そのものに焦点を当てていたそれらの作品に比べると、以前と以後を丁寧に描いているので興味深い。特にジミと弟(?)モートの逃避行に人質としてマクレディという白人が加わるのだが、彼によってジミの揺らぐアイデンティティが構造から可視化されていくのはとても良い。

ただ、既に挙げた『UTU/復讐』は色彩や内容、上映時間に至るまで本作品に対し圧倒的な優位に立っている。下位互換なので二重登録としか思えないが、後の改訂で消えたのは同作だった。納得できぬ。
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