かわさき

ハドソン川の奇跡のかわさきのレビュー・感想・評価

ハドソン川の奇跡(2016年製作の映画)
5.0
 今年の年間ベストムービー筆頭ではないでしょうかね。

 ドキュメンタリーやノンフィクションもので最も大事なのは「並べ方」だという。そこに行き過ぎた誇張や脚色があってはいけないし、ましてや捏造なんて以ての外だ。

 今作は、文字通り「事実を並べただけ」。同じシーンがリフレインすることはあるが、そこに誇張や脚色はない。演出であって演出ではないのだ。まさに、リアリストのイーストウッドだからこそ出来た芸当である。正義に対する揺さぶりは『アメリカン・スナイパー』を彷彿するが、今作はそれだけに止まらない。アメリカ人のDNAに刻まれた9.11を絡め(メタ的な表現が随所に見られる)、「正義」という普遍的な概念が、アメリカ人の内省的な部分に繋がってゆく。その意味では、極めてアメリカ的な映画である。

 イーストウッドは、ドナルド・トランプを支持する意思を表明し、大いに世間を騒がせた。メリル・ストリープやレッチリのフリーが、それに対して批判的なコメントを出している。私自身も、そのニュースを見た時はモヤッとした感情を抱いてしまった。しかし、この映画を観終わった今、その真意が少しだけ分かる気がする。イーストウッドが生きている世界は、絶対的な現実空間なのだ。理想主義や数字ばかりが物を言う会議室なんかじゃない。リアルを生きる英雄の姿は、もっと泥臭いのだ。

 余談だが、イーストウッドはトランプを全面的に支持しているわけではない。レイシズムを擁護するような発言ばかりが取り沙汰されたが、実際のインタビューでは、現在のアメリカの軟弱ぶりを嘆くコメントが大半である。
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