天豆てんまめ

ハドソン川の奇跡の天豆てんまめのレビュー・感想・評価

ハドソン川の奇跡(2016年製作の映画)
4.0
公開当時、劇場で観た。

圧巻の96分。短い時間に凝縮された究極の人間ドラマだ。

一切の無駄が無く、描写は締まって、テンポに焦りもよどみも無い。これぞ、イーストウッドと彼をとりまく優秀なスタッフが創り上げる ”名作の香りが全編に漂う空気感”。

彼はきっと感情を入れ込み過ぎない。そこをぐっと抑える胆力が、映画を引き締まった傑作に引き上げているのではないか。

原題は「SULLY」この奇跡の中心にいる機長の本名である。演じたトム・ハンクス。前代未聞の事態を迎えた時の毎秒ごとの究極の判断、選択。それをこちらは息もせず見守らされる。水面不時着までの描写も迫力満点。

そして生存者、155名と告げられた時のトム・ハンクスの表情がたまらない。胸に込み上げるものがあった。

たった1日にして、英雄視と疑義の狭間に晒される、その凄まじいプレッシャーに耐える。眠れない。走る。

自身の判断への確信と一抹の揺らぎを胸に、プロとして逃げない。全て受け止める。調査官の徹底追及に真っ向から対峙する。究極の「プロフェッショナルの流儀」の深み。

クライマックスの議場でのシミュレーションを、皆で固唾を呑んで観るシーンの、トム・ハンクスの言葉ひとつひとつが重い。もう、このシーンはしびれにしびれる。

副機長役のアーロン・エッカートも抑えた演技で素晴らしい。

そして、クリント・イーストウッド監督はもう91歳。

91歳まで、生きていられるだけで大したものだと思うのだが。

70歳を超えてから傑作を打ち続けている驚愕の事実。

73歳の「ミスティック・リバー」
74歳の「ミリオンダラー・ベイビー」
78歳の「グラン・トリノ」
84歳の「ジャージー・ボーイズ」「アメリカン・スナイパー」

そして、
89歳の「リチャード・ジュエル」

ここまで傑作を晩年に出し続けた人物は、おそらく映画史上いない。

生きる伝説と、同時代に生きていることの喜び。

その美学を、スクリーンで堪能できる喜び。

あともう少しだけ、味わわせて欲しい。