エソラゴト

ハドソン川の奇跡のエソラゴトのレビュー・感想・評価

ハドソン川の奇跡(2016年製作の映画)
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題材や予告編等でやはりR.ゼメキス監督の『フライト』を想起してしまうが、こちらは実話に基づいたドキュメンタリーに近い作風、上映時間96分というコンパクトさと小気味良い編集によるテンポの良さで一定の緊張感が持続されていてとても観易くそれでいて心に響く物があったのは確か。

40本近いクリント・イーストウッド監督作品の中でトム・ハンクスと組むのは今回が初めてというのは意外といえば意外。トムは過去にも実話ベースの「絶望からの生還・帰還」ものとして『アポロ13』や『キャプテン・フィリップス』があり「奇跡の人」を演じさせたら右に出る者はいないほど板に付いてる感はある。

しかし、今作の航空機事故の当事者であるトム演じる主人公サリーことチェスリー・サレンバーガー機長はこの生還劇を「奇跡」呼ばわりされること、自らを「英雄」視されることに違和感を感じ終始怪訝そうな表情で顔が曇る場面が印象的に映しだされる。

飽くまで自分は機長として通常通りの業務をこなし責務を果たしていたこと、その上での予期せぬアクシデントに対して今迄の経験則からくる判断力や決断力を駆使して最善の解決策を導き出したことが彼の信条だからなのだろう。

またイーストウッド監督が早撮りなのは、今回のトムや以前の『J.エドガー』でのL.ディカプリオのインタビュー等でも有名。一発撮りなのはおろかリハさえも碌にしないので、トムは現場に早目に来て楽屋で他の演者達と練習したそう(笑)役者には素のままでなるべく無駄を削ぎ落として演じて貰う為で、こちらも長年の俳優の経験から編み出した方法論なのだとか。

職種や仕事の内容は違えど、どちらも長年培ってきた経験による確固たる信念と誇りを持って仕事に携わる同じプロフェショナルに関するストーリーだと感じた。



エンドロールのご本人と搭乗者ご登場は彼本人が嫌がっていた英雄視のように思えて個人的には少々蛇足な感は否めないが…、以下は印象に残ったパンフからの補完情報。

・実際にこの便に乗り合わせた日本人2人の証言インタビューが興味深い。事故後の機内の様子や機長及び客室乗務員達の行動、沿岸警備隊、警察・消防等の救助活動は映画の描写通り迅速で正確だった事。(911の経験からくる慣れた対応だったらしい)

・航空関係者の話では、事故原因であるバードストライクはよくある事だか、この事故では2つの事が想定外であったという。1つは大型のカナダ雁の群れに遭遇してしまった事。(鳩やスズメくらいではエンジンが破壊される事はまず無い設計らしい)2つ目はそれにより両方2つのエンジンをやられてしまった事。(一つでも正常であれば引き返す事は可能との事)

・同じ航空関係者の話で、管制官のとった行動や出した指示等もきちんと理に適っていてこの救出劇の影の立役者であるとの事

・イーストウッド監督も若い頃、戦地で飛行機の水上への不時着の経験がある事。

・副機長は未だ現役としてパイロットをこなしている事。(現在は機長として)

・サリーご本人は前述の『アポロ13』「キャプテン・フィリップス』の当事者とお会いした事があるとの事。