浦切三語

RE:BORNの浦切三語のレビュー・感想・評価

RE:BORN(2015年製作の映画)
1.0
ひでえ映画っすな~

こーいう映画を観た後、いつも思うんです。出てる役者さんたち、一体どんな気分で演技してたんだろーなって。

「映画なんて楽しめたもの勝ちなんだから、細かい突っ込みを入れていたらキリがない」のは、たしかにその通りです。私だって、突っ込みの余地をそれなりに持つ作品は好きです。

しかしながら、「内容はともかく楽しめればいいじゃん」という擁護が通用するのは、下手でも下手なりに頑張って脚本を作った後が見られたり、限られた予算の中、現場の工夫で印象的な絵を創ろうとしたり、そうした「創作に対する真面目な姿勢」が垣間見える作品に限っての話です。

「アクションだけやってりゃいいや、ほかの部分はどーでもいいわ」と言わんばかりの中途半端で生半可な態度で満ち満ちているから、私はこの映画に対して怒っているわけです。映画を撮るという行為、物語を語るという行為に対して無意識の怠惰を隠そうともせずに作品を作り、それでお客から金をむしり取ろうというのは、これはもうほとんど詐欺のようなものです。詐欺師の手管を擁護する言葉を持つほど、私はお人好しではないのです。

では、具体的にどこが駄目だったか?

まず世界観の作り込みが意味不明なくらい雑でびっくりです。「国防軍」の特殊作戦部隊が出てくるということは、恐らくは憲法九条が改正されて専守防衛が実現化した未来なんでしょう。しかし劇中で主人公が使用するのは現代ですら滅多に見なくなったガラケー。私はこれ、過去の呪縛から逃れられないでいる主人公の心理を暗喩するための小道具かと思ったのですが、主人公が保護している幼女もガラケーを使っていたので、なるほどこの映画は2000年代前半の「架空の日本」「こうであったかもしれない日本」を舞台にしているのかと一瞬納得しかけたのですが、敵組織のクソガキが情報管理で使用している機材が、どうみても2010年代後期のMacBook!見間違いではありません。悪い意味で驚きました。

いや消せよ!リンゴマークのロゴ!あるいはシール張るなりして隠せよ!予算が少なくてもそれくらい出来るでしょ!なにをデカデカとノー天気にカメラに映してんだよ!「架空の日本」を舞台にしてるはずなのに、そういう部分にスタッフ一同誰も違和感を覚えなかったんでしょうか。美術スタッフがまるで機能していません。杜撰すぎる仕事っぷりにイライラします。

お話自体も、ご都合主義とか以前の問題です。どんなに安直な物語でも自分は案外満足できてしまうお得な性格をした人間ですが、この映画の物語はハッキリ言ってゲスの極み。場面場面で挿入される意味ありげなイメージ映像は意味なんて持たず、物語すら語らず、「ただ流しているだけ」であり、シーンとシーンの繋ぎががさつなため演出も機能しておらず、従って設定上どれだけ重い過去を主人公に背負わせていようが、背景が薄っぺらなものにしか見えません。しかも、主人公の心理状況や背景もろくすっぽ演出できないくせに、キャラクターが無駄に多い。下手くそなラノベ作家だってそんなことはやりませんよ。あの「一般人代表的な立ち位置の」心理カウンセラーとか斎藤工のキャラとか、完全にいなくても成立します。どういうことなの?
(余談ですが、この心理カウンセラーの演技が、まあクサすぎて観てられない。てかこの映画、出てる役者はそこそこ有名なのに軒並み演技が過剰にデフォルメされておりクサ過ぎ。失笑は必死です)

主人公が現役時代に関わりのあった「アビス・ウォーカー」とか言う中二病みてーなコードネームのキャラは、ラスト付近でようやく主人公と対峙しても「俺たちの戦争はまだ終わっちゃいないんだ」とかなんとか、まるで『メタルギア・ソリッド』から借りてきたような「意味ありげな(本当に"げ"なだけで、内実は骨粗鬆症患者みたいにスッカスカな)」台詞しか吐かないし、ビッグボスみてーな大塚明夫にFOXのコードネームを持つ敵が出たり、そういう「見てくれ」部分だけのオマージュにもなってない怠惰なパクりを見るにつけ、私の怒りのボルテージは急上昇。だいたい戦争って、それどこの戦争なんだよ。どこでどんな任務に就いていたんだよ。まずそれを映像なりナレーションなりで説明するだろうに、序盤のカットで「英雄は~うんたらかんたらで~」とか、中二病を煮詰めたようなポエム流してる場合じゃないだろ!脚本書いた人はフィクションにおけるリアリティの重要性を何も分かっちゃいないようです。岸辺露伴に説教されてこい。

こうなってくると、普段は気にも留めないキャラのひとつひとつの仕草にもムカついてしょうがない。たとえば、前述した敵組織のクソガキ……こいつが喫茶店でケーキ食ってる場面があるのですが、そこでクソガキは、なんと自前の軍用ナイフの上にケーキを乗せて、直に口へ運んで食っているのです。テメーは石田純一か?石田純一がリンゴをナイフの上に乗せて食ってるのに影響されてるのか?リスペクトってやつか?石田純一をリスペクト?……なるほど、だからいしだ壱成が殺し屋役で出演しているのかー、ってそんな納得はいらねーんだよ!監督のセンスは90年代で止まってるんでしょうか。私もそれなりにおじさんですけど、この監督の、中年おやじの履きふるした靴下レベルの古臭さ&ダサさ満点の演出センスには反吐が出ます。その古臭くてダサいセンスが「全役者」たちの演技に反映されているのは明らかで、いちいち飛び出す台詞がギップルも悶絶するレベルのクサさをかましているため、観ていると耳がアホになる映画です。こんなクサ過ぎてセンスの欠片もないような台詞回し、なろう小説にだってそうはありません。

しかし一番ムカついてしょうがないのは坂口さん演じる主人公です。もうね、凄いです。性格もクソだし、態度もスカし過ぎてウザイ。別にクソな性格の主人公がダメなんじゃなくて、物語が皆無なせいで、この映画全体が「ただのクソなおじさんがカッコつけてる絵を無理矢理見せられている」だけにしか見えないのが最悪なんです。

坂口さん演じる主人公の印象を端的に表すとするなら「中二病から抜け出せない、ただのカッコつけてるだけの、幼稚な小汚いおじさん」です。なろう小説に良くある「俺ツエー主人公」の悪い部分だけを煮詰めたようなキャラで、この主人公はとにかく「他人とは違うオレ」に終始酔ってるイタイおじさんです。ただ人殺しが上手いだけで、人間としてなにひとつ成長しない亡霊のような精神年齢15歳です。最初から最後までそんな感じなので、ヤバいです。ドラマの構築を破棄してまでこんなキャラを見せたかったのかと思うと寒気すら覚えます。「孤独で誰からも理解されない最強なオレ、カッコいい……」な雰囲気を全面に出しすぎていて、さっさと敵にやられてくんねーかなと祈る自分がいました。

この映画は恐らく『メタルギア・ソリッド』や『ザ・レイド』や『ハンテッド』以上に、ドラマ面では『アジョシ』からの影響を強く受けている作品だと思うのですが、主人公が背負っている過去の重さも、怒りも、哀しみも、そして子供の扱いについても、その全ての描写力が『アジョシ』とは天と地ぐらいかけ離れています。しかしこれは坂口さんの責任ではなく、演出と演技指導を担当する監督の責任です。言い過ぎですか?そんなことないでしょ。こちとら399円払ってアマプラで観たんだから、これぐらい言ったってバチは当たらないはずです。

目玉にして肝心のアクションについてですが、これもどうなんでしょうね。杜撰な世界観と雰囲気だけの物語に比べたらかなりマシですが、ここでのアクションは「アクションのためのアクション」にしかなっていないので、盛り上がるかっていうと微妙なところ。つーか、出てくる敵が主人公の「俺ツエー」を演出するための駒でしかないので、端的に言ってつまらない。森林地帯での戦いが長すぎだし、ラストのアクションシーンにいたっては、なんですかあれ。主人公がラスボスと向かい合った緊迫のシーンで「鮮魚」とか「パーマ」とか、気の抜けた暖簾や看板を平気で映しているのは、あれなんなんですかね?雰囲気台無しなんですけど。撮影監督は素人ですか?

だいたいねー、ウェイブだかゼロレンジだか知りませんが、あれって実際のところどれだけ実戦で使えるんでしょうか。殺人術ってんなら『アジョシ』のナイフアクション、軍隊格闘術の方がよっぽど殺人術ですけどね。肩甲骨の可動域をやたら重要視した武術で、坂口さんのお師匠さんの格闘術も動画で見ましたが、アクションの素人目には蛇拳の方がダイナミックで強そうに思えるんだよなー。上半身の動きをかなり重要視しているわりに、体幹の要である下半身の動き、足技の数があんまりなかったのが気になる。しかしお師匠さん演じる中二病コードネームのキャラは足捌きに特徴が見られたので、これは坂口さんの力量不足か。でもそんな風に観ている側に感じさせてしまう撮影監督が一番悪いんですけどね。

最後に良かったところを。それは川井音楽、大塚明夫の洗脳ヴォイス、そして斎藤工の渾身の鼻水です。

そうそう、坂口さんがやってたウェイブのあの特徴的な予備動作、肩甲骨をうねうね円形に動かすアレですが、効果音も相まって不気味で気持ち悪くて良かったです。だから、今度はアクション要素強めのホラー映画に出たらいいんじゃないですかね。あの肩甲骨うねうねはかなり気持ち悪いので、クリーチャー役とかで出たらなかなかホラー映えすると思いますよ!
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