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可愛いくて凄い女のニシのレビュー・感想・評価

可愛いくて凄い女(1966年製作の映画)
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体の一部(顔や手)への寄りカットは屋内から屋外への解放のためにあるとでも言うかのような演出。スリを行う最中は手や目線にカメラが寄っていき、スリが完了すると身体が外へ解放される一連の流れを小気味良く進めることで、テンポ感が増し、好き。

登場人物が映画的動きをしないのはなんでだ。自分が感じた中では、映画的な動きは大坂志郎さんが緑魔子を尋問しながら左右に体を行ったり来たりさせていたことくらいで、他は全て、日常の動きの範囲内だった。それで映画ができてしまうのは凄いことなんじゃないのか。

あと特筆すべきなのは、緑魔子の落語的な語彙感のいい東京弁で流暢にタンタンタンと畳みかけるリズムの良さ。彼女が話し出すだけで文字通り明るくなる(夫婦の部屋に夫の不倫相手の旦那ヤクザが殴り込んでくるというドロドロした場面、そこに緑魔子が滑り込んでくることによって消されていた照明のスイッチが押される)。

1回目2回目のスリは成功させるが、3回目の100万円のスリは、それまで標的と築いてこなかった男女の関係をスリ相手と築き、抱き合った隙にポケットの札束をくすねる犯行に及んでしまう。

少なくともこの映画内では、スリは財布やダイヤモンドの金品を奪うという目的のみに徹する反組織的な人間として描かれている。なので、そのスリが金品を奪うために、その所持者である人間と組織になるのを映画は許してはくれない。

野坂と男女の関係を装って100万を奪った緑魔子は野坂に追い回されることになる。そして緑魔子が取った選択はあろうことか刑務所に入るという最も組織的なことだ。

刑期満了しても許されることのない汚れを野坂は追い続ける。そこに生粋のスリである天田茂が車で現れる。彼はスリである矜持として女と関係を築かない主義を持っていたが、映画のクライマックスと共にその矜持は崩れ落ち、緑魔子のために野坂を車で轢く暴挙に打って出る。

そして最後に一言「女に惚れてしまったら手が後ろに回る。」、彼は女と関係を築いたためにスリとして生きることを断たれ、刑務所に入れられる。緑魔子は仲間も男も失い、また一人でスリに耽ていく(私の予想)。

クライマックスの緑魔子がドスを振り回す殺陣には全く魅力を見出せなかったが、寄りカットに頼らず細部にカメラを寄らせずとも銃をスってしまう緑魔子のスリの技術は、100万円をカバンからスった天田茂の技術に並んだという緑魔子の成長なのか。
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