ニシ

辱められた人々のニシのレビュー・感想・評価

辱められた人々(2003年製作の映画)
5.0
「労働者たち、農民たち」を超え、更に個人というものが浮き彫りになっているように思う。憲兵/労働者農民の構造で、辛うじて最初の1人の憲兵は労働者農民に向かい自分の言葉を届けようとしていたように感じたが、他はワンショットだろうと複数人ショットだろうとグループの意味を為しておらず身分で考えを一括りにすることはない。冒頭、歩いている2人は会話の程こそ為しているがお互い価値観をぶつけ合うことはない。後半の同じ制服を着ている憲兵3人でさえも仲間だという意識はない。最後、玄関から訪問した少女が逃げ出した男について夫人に告げると、この映画で初めて夫人が前によろめき手をつくという人間が言葉に反応する時間が訪れる。が、それは一瞬だけに留まりドラマは促されることはなく夫人の顔ワンショットに移行する。夫はフレームを隔てベッドのフレームの中でのみ芝居が与えられる。
語られる内容はあまりに酷で生きていくのも辛くなる、本来並の幸せを享受するべき中流階級が喘ぎを余儀なくされる戦後資本主義のやるせない側面だが、それでも美しい自然と、鳥の囁き水流音。人生なんてものは皆んなそれぞれ苦しいものだが、ストローブ=ユイレを代表して聡明で大胆で刹那な人間がこの世に存在していてそれを直な手触りで実感できる瞬間は希望で救いでエクスタシー以外の何物でもない恍惚だ。
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