Cineman

リップヴァンウィンクルの花嫁のCinemanのレビュー・感想・評価

5.0
『リップヴァンウィンクルの花嫁-劇場版-』
岩井俊二監督
2016年公開

おどろおどろしさに彩られたいかがわしい物語の末に迎えた切なさ!

【Story】
派遣教師の皆川七海は「教師」という仕事が好きだが声が小さく生徒たちにからかわれる日を送っている。
派遣教師だけでは暮らせないのでコンビニでアルバイトをしなければならなかった。
ある日とつぜん彼女はSNSで知り合った鶴岡鉄也と結婚することになった。まるでインターネット通販でモノを買うようにあっさりとした結婚。
結婚式の段取りを打ち合わせている時に 親族の参加者の多い鉄也に比べ、七海は結婚式に出席してくれる親戚も友人も少ないことが分かり、バランスを整えるために七海は参加者を増やさなければならなくなった。

七海が困った事情をネットでつぶやくと「ぼくがお手伝いしますよ」とネット仲間の安室行舛が書き込みしてくれた。
七海はいつもネットでやりしていた安室に初めて会う。
安室行舛は「ぼくは役者もやっているんですけどなんでも屋もやっていますので代理出席者なんて簡単に揃えますよ」と手を差し伸べてくれた。
安室から提示された代理出席者を揃える経費はかなり高額だったが他に打つ手もないので七海は安室にお願いする。

無事結婚式を終えて新婚生活を始めた矢先鉄也の浮気が発覚した。
七海は鉄也の浮気調査も安室に依頼した。
どんな苦境に立たされても見事な解決策で助けてくれる安室に七海は全面的に信頼をおきはじめた。

このあと七海にどんな運命が待ち構えているのか、いったい安室は何を考えているのか・・・。
物語は思いもかけない方向に突き進んでいく。


無理でしょこんなバカな話はという物語が次々と悪夢のように巻き起こります。


【Trivia & Topics】
*面白いな〜この映画は。
なんだこのメチャクチャな物語はと疑いつつも3時間の長丁場を感じさせない奇妙な面白さに彩られた不思議で切ない時間を過ごせます。

岩井俊二監督作品は過去に『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』を観ています。『花とアリス』はとても素敵な映画でしたが世評の高い『リリィ・シュシュのすべて』や『スワロウテイル』には今ひとつ乗り切れず途中下車しています。
『リップヴァンウィンクルの花嫁-劇場版-』は岩井俊二監督作品そして黒木華出演作のベストになってしまいました。

*黒木華が見事に役にハマっている。
岩井監督が2012年にCMのオーディションで黒木華に出会い、彼女をイメージして4年後に制作しただけあってこれほど黒木華を愛おしく感じさせる作品は観たことがありません。

*奇妙で悪夢のような甘美なファンタジー。
この作品は虚構だらけの世の中に生きる七海の切なさあふれる純愛物語なんです。

*リップヴァンウインクルをご存知ですか。
アメリカの小説家ワシントン・アーヴィングの短編小説の主人公です。独立戦争から間もない頃呑気者のきこりリップヴァンウィンクルは口やかましい妻にガミガミ怒鳴られながら暮らしていました。
ある日猟に出た彼は深い森に入り込んでしまいますがリップの名前を呼ぶ見知らぬ老人と出会いました。
老人に連れられた山奥で出会った人たちとリップは愉快に酒盛りを始め酔っ払ってぐっすり眠り込んでしまったのです。
目醒めたリップは山から下りると町はすっかり様変わりして友人たちはみんな年を取り妻はすでに亡くなっていました。
彼が一眠りしている間に世間は20年もの年月が過ぎ去っていました。
という物語。
つまりアメリカ版浦島太郎です。

*りりィ
180分の長丁場のこの作品のラスト20分頃に綾野剛、黒木華に加えてりりィが登場して3人で大酒を呑むシーンに驚かされます。
2016年3月16日にこの作品は公開されました。同年11月11日、りりりィは64年の生涯を閉じました。
肺がんと闘いながら撮影に挑んだりりィの熱演はとても印象的です。

*おそらく評価は両極端。
『リップヴァンウィンクルの花嫁-劇場版-』に強烈に惚れ込む人と、なんだこれはと感じる人と両極端に分かれるカルト作品です。


【5 star rating】
☆☆☆☆☆
(☆印の意味)
☆☆☆☆☆:見事な作品
☆☆☆☆ :面白い作品
☆☆☆  :平凡な作品
☆☆   :残念な作品
☆    :退屈な作品
Cineman

Cineman