sea

リップヴァンウィンクルの花嫁のseaのレビュー・感想・評価

3.7
岩井俊二映画祭にて。手放しに「良かった!」「大好きな作品だ!」とは上手く言えないけれど、確実に心に残る映画だった(ネタバレあります)。

知らなくていいこともあるし、人生は説明できない感情ばかりだし、一見悪く見えることでも本人にとっては良いことなのかもしれないし、幸せの基準は自分が決めるもので、人生はどう転ぶかわからず、どうにでもなるし、どうにもならない。こうやって、この映画で感じたことを言葉にしようとすると、当たり前のことを言っているし、どうしても薄っぺらくなってしまう。矛盾したような気持ちになる、夢を見ているみたいな映画だった。

お金とか嘘とか代理とかSNSとか、汚くて醜い部分が沢山ある映画なのに、どこか儚くて美しくて、それでも色々な人がいる、色々な感覚や考えがある、現実を詰め込んだような感じもする。うまく言葉にできない。

開始一時間はどうしてもはっきりしない気の弱い七海に苛々してしまった。悪いことはしてないけれど、注意力や警戒心がなく、どうしようもない。お金で動いている安室は悪い人間のはずだけれど、一見人に優しくしている善良な人間に見える。(おそらく)全て安室の思惑だけれど、七海の人生は社会的には堕ちていっているように見えるけれど、生きている実感や何か新しい人生を見出していく七海は、七海にしか感じられない何かをきっと掴んでいった。そこまでは安室の思惑通りではないし、最後に家具を運んだ安室の行動は、お金の発生しない純粋な優しさだと思った。ただ、今後七海が困るようなことがあれば、容赦なくお金を搾取する気もする。わかりやすい悪人ではなく優しくすることで油断させ、お金を貰う。安室はそういう人間だと思う。ただそれが、お金を払った依頼者にとって幸せかどうかは、依頼者本人が決めることなのだ。七海の最後の「ありがとうございました!」は、今までの七海からは考えられないくらい大きい声で、良かった。

住み込みのメイドのバイトの日々は、夢みたいで、まさに映画で、現実にはないように思えるけれど、こういう人たちもいるのかもしれないと考えさせられる。レズとかAVとか何でも屋とか、普通じゃないとか、マジョリティーじゃないとか、そういうのどうだっていい、という気持ちになる。生きている人たちの数だけ、感覚や考えや人生がある。そういう考えが、追いつかないままどんどんと、ブワーッと広がってしまって収拾がつかない感覚になっている。

真白の骨を母親に届けて、三人で焼酎を飲んで服を脱ぎ、泣き笑いするシーン。正直戸惑ったけれど、観終わってしまうとそれすらも人生の一コマのような、そういう不思議な気持ちにさせられた。安室はあのとき、笑いが堪えきれず吹き出したのを誤魔化すみたいに泣いている演技をしているように見えた。もしかしたら安室は契約という関係を超えた繋がりが、思いが、真白に対してあったのかもしれない。お金基準で生きている安室にとって、笑えばいいのか泣けばいいのかわからなかったのかもしれない。でもこれは私の勝手な憶測であり、本当のことはわからない。それでも、そういうよくわからないものも含めて、安室の本当の気持ちがわからないことも含めて、人生のような、人のような。

正直私は、真白の気持ちはわからない。幸せの限界値なんてない。いくらでも幸せな気持ちになりたい。優しくされたい。真白みたいに繊細な人がいたら、壊してしまいそうで、怖くなる。それでも、短い時間でも二人が良い時間を過ごせて、本当に良かったという気持ちになった。

とても不思議な気持ちになっている。フワフワしている。夢を見ているみたいな感覚。振り回されても、騙されても、よくわからない方向に転がっても、なんとかなるかもしれない。私の人生もこんな風かもしれない。みんなこんな風で、よくわからなくて、よくわからないまま終わっていく。この作品を生み出してくれてありがとう。
sea

sea