あきらっち

リップヴァンウィンクルの花嫁のあきらっちのレビュー・感想・評価

4.0
素朴でアンニュイな雰囲気が魅力の黒木華。
本作、岩井俊二監督が彼女をイメージして作成したというから驚きだ。
全編彼女の魅力が詰まった180分。
良くも悪くも飽きることなくラストまで鑑賞。

タイトルに付けられた“リップヴァンウィンクル”
これを題した西洋のおとぎ話は、日本で言う浦島太郎のようだという。

“リアル”と“幻想”

全ては幻だったかのように、
まるで夢から覚めたかのような黒木華が演じる七海のラストシーン

流され生きてきた人生
偽りの家族
浮世離れした日々
魂の友…

全てを無くして、
それでも彼女のすっきりとしたラストシーンの表情は、
心に残った形のない大切な宝物を胸に、
きっとこれまでとは違って、
自分の意志で、
自分の足で、
前を向いて歩き始める
そんな予感をさせる素敵な表情だった。


気弱な性格故に、はっきりと自分の気持ちを示せぬまま流されて生きてきた前半の彼女の人生。
優しい心が災いし、いつも遠慮がちで自己主張ができず、いつしか彼女から自信と意思を奪ってしまったのだろう。

まるで目隠しでもされて思考がとまったかのような、
“あ、はい…”
“あ…”
“あの、はい…”
“あ、はい、あの…”
“え、あ…”
“すいません、つい、うっかり…”


正直、前半の七海の受け答えは、観ていてとてもイラっとした。
ワンクリックの相手との間に心の絆を持てぬまま、流されるままのハリボテのような新婚生活。
相手の男や母にもイラッとくる。

唯一心を許せるSNSの書き込みで、彼女とやり取りしていた“ランバラル”は見抜いていたんだなぁ。

満たされない心の隙。
良くも悪くも彼女の自分の人生が動き出す。

Coccoが演じる真白との出逢い。
彼女もまたリアルと幻想を生きる、心に空虚をまとった人生を歩んでいた。
思えば後半の登場人物の多くがそうだ。
皆誰かに必要とされたくて、もがきながら生きているように思えてならなかった。

“この世界はさ、本当は幸せだらけなんだよ”

誰かに必要とされたい想いは、誰かを幸せにしたい気持ちの裏返しなのかもしれない。

七海のラストシーンの表情が清々しいのは、そういうことだと私は思っている。

エンドロールに映し出された猫の様な白い被り物を深く被った七海の姿が意味する事…

ねこかんむり=猫かぶり=…

相手の見えないSNSや幻想にあふれたこの現代社会はまるで、この猫を被っているようなものだと、
この時代に生きる私達への岩井俊二監督ならではの皮肉と警鐘なのかもしれない。

※黒木華、Cocco、綾野剛がそれぞれ持ち味を出し、とても良い演技だった。
スワロウテイルの伊藤歩とCHARAといい、役者の魅力を存分に映し出す岩井俊二ワールドを見せつけられた思い。
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