Omizu

アラビアン・ナイト 第1部 休息のない人々のOmizuのレビュー・感想・評価

4.5
【第68回カンヌ映画祭 監督週間出品】
『熱波』で知られるポルトガルの映画作家ミゲル・ゴメス監督作品。「千夜一夜物語」の映画化は数多くあるが、本作はその構成を借りて全く別の物語を語っている異色作。全三部6時間21分の大作。

冒頭こそ奇抜な演出についていけない予感がするが、加速度的におもしろくなっていく。千夜一夜物語の形式を借りて現代ポルトガルを風刺したブラックコメディになっていく。

最初のエピソード「勃起した男たち」が好き。ポルトガルの緊縮財政を議論する政府関係者と金融基金の人々。彼らは勃起不全に悩んでいたが、魔術師に薬をもらい解消する。しかし勃起したはいいものの収まらない。

勃起と財政を絡めた荒唐無稽な話でありながら、上層部の無能っぷりをおちょくったセンスが凄い。フィクションと現実の混ぜ方がおもしろい。

二つ目のエピソードは「雄鶏と炎」で、変な時間に鳴くため隣人に訴えられた雄鶏が動物語が分かる裁判官にその理由を話し出す。

これだけはおとぎ話という雰囲気。なかなかのイケボで話し出す雄鶏、その理由である消防士をめぐる三角関係は大人の話のはずなのに子どもに演じさせるなどハズした演出が深読みを誘う。

三つ目は失業した三組の「勇者」たちのインタビュー。明らかに現代ポルトガルの労働問題を描いている。インタビューの内容も生々しい一方で、なぜか水泳にこだわる男を描き絶妙なバランス。クジラが破裂して真っ先に逃げ出す警官がおもしろい。

『熱波』はあまりピンとこなかったがこれはおもしろい。ポルトガルの現代史を知っていればもっと楽しめる気がするが、これを観ることで楽しく理解できる。意義深い試みであり、素直におもしろい一作だ。気に入ったので第二部、第三部も楽しみにしたい。
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