ルサチマ

ミッシェル・ド・モンテーニュのある話のルサチマのレビュー・感想・評価

4.7
ユイレの死後のストローブにはどこか分裂している気配を感じるのだが、今作は特にその傾向が強いような気がする。ソクラテスの「自己」についての思考を踏まえつつ、自己について語ることの困難さを一つの主題としているが、当然自己について語るほどそれは自慢が付き纏い、大抵の場合自分語りは聞くに耐えないものだが、では逆に今作の中の引用されるテキストのように自己の不出来な側面をそのまま語るのだとしても、それは不出来な自己を語ることの出来る自分を提示してしまうため、やはり自分語りすることに碌な結果は付き纏わないのは周知の事実だろう。だが、「生について語ることを禁じる時、それは建築家に自分が培った建築の知識を語るのを禁じて、隣の人間に語らせるのと同じことだ」というような内容の今作で用いられるテキストの引用を出演者に朗読させる場合、ストローブは演者に演技の不可能性を体現させつつ、しかしそれでもなおやはり「他者の夢を物質化する」営みでしか到達し得ないであろう開かれた地平を目指す矛盾した二つの思想を同時に視野に見据えている。
ユイレ亡きあとのストローブの映画についてはある種の自己模倣的な側面も否めなくはないのだが、それでもやはりストローブが分裂を孕みながら映画の手法そのものを問い続けた姿勢にこそ畏敬する。
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