剱岳、長次郎谷。
大学一回生のときに初めて剱岳山頂に登ったのは長次郎谷からでした。
それから毎年、大学院を中退するまで、山岳部の合宿で夏の長次郎谷から剱岳を登り続けていました。雪渓を登る足の感触、手で触れた岩の重さ、八ツ峰、三の窓、チンネ、風、雨、日差し、ハイマツの匂い、雷鳥、一緒に登った部員…。そんなことを思い出させてくれた作品です。
あのときから、もうずっと長い時間、長次郎谷には行っていない…。
今日、この映画を見て、剣岳を開いたひとりである長次郎さんに出会うことができたような気がします。長次郎さんは、実際にはどんな方なのか私は知るすべがないけれど、この映画に出てきた長次郎さんは、私の心の中の大切な住人のひとりになりました。演じた香川照之さんに感謝しています。
登頂直前に、剣岳の山頂を見上げる場面がありました。自分が登ったときは一度も感じなかったのに、その場面で眼から熱いものが滲んで、少し溢れてしまった。私は年を重ねたからでしょう。
心に刻みこまれた作品です。
