なっこ

偉大なるマルグリットのなっこのレビュー・感想・評価

偉大なるマルグリット(2015年製作の映画)
3.0
一言に“愛”と言っても色んな意味や形があるのだと思う
彼女が欲しかった“夫の愛”なるものは、現代を生きる私たちと同じものだと考えてよいものだろうか。

賞賛、承認、欲望、絆、あるいは対等な会話。
求める“愛”を言い換えてみるならば、きっとこの物語の意味は広がっていく。

彼女はお世辞にも上手いとは言えない歌を人前で歌うことで、世間体を気にする夫の気を引こうとする。

これはある意味狂気の物語。

喜劇としても観れるのかもしれないけれど、私には、愛をどこまでも求める切ないお話に見えた。
彼女の夫を見る目は常に真剣で愛に満ちている。
そして、彼女の狂気は物語が始まる前、カメラの視点が捉える前から始まっている。
その変遷は、密室で執事が取り続けた彼女の肖像からうかがえる。

愛を請う人は、常に狂気と隣り合わせなのかもしれない。

カメラアイ
ある視点から、事物を写し撮ることが可能になって、その視点が見ているこちら側の主観と重なり合う。
かつて肖像は改変の容易な絵筆で描かれたが事物をそのままを写し撮るカメラに取って代わられていく。
その肖像が写実度を増せば増すほど、私たちに訴えかけてくる感情はより強くなっていく。
見る側、見られる側は心理的に接近していく。

ファインダーの向こう側に彼女が見ているものは何か、
撮る執事はとうに気付いている。
写してほしい物語の意味を一番理解していたのは彼だ。
けれどシャッターを切る度に、物語を支配していくのは、彼の方になっていったのかもしれない。

カメラのシャッター音で幕切れる。

私はそこから新たな物語を紡ぐ。
なっこ

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