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ラーメンより大切なもの~東池袋大勝軒50年の秘密~のTSのレビュー・感想・評価

4.4
【人生の教科書のような映画】
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監督:印南貴史
製作国:日本
ジャンル:ドキュメンタリー
収録時間:90分
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傑作。単純に食べ物に関するドキュメンタリーを見たいと思いたまたまレンタルしたものでしたが大当たりを引いてしまいました。37しかMarkされてないのは非常に勿体無い。ここ1ヶ月あまり心に響く映画に出会えてませんでしたが、久々に感銘を受けました。

今作は、ラーメンの神様と言われる山岸一雄さんと、創業45年の「東池袋大勝軒」を追ったドキュメンタリーです。山岸さんは、あのラーメンの鬼といわれた佐野実さんにも唯一頭が上がらないと言われた人物だそうです。ガチンコファイトクラブのラーメン道において、異名通り鬼であった佐野さんですら途轍もない気迫を感じたのに。。
かつて東京の池袋に店をおいたこの伝説の「東池袋大勝軒」は2007年に閉店。関西に住んでいる自分からすると時期的にも場所的にも全く手に届かなかった幻の店となってしまいました。長蛇の列は当たり前で、毎朝7時半には最初のお客が並ぶ模様。中にはここのラーメンを毎日の昼飯にしている常連もいて、その知名度は凄まじいものだったようです。

と、このように有名なラーメンの真髄に迫るという映画なのだと思いましたが違いました。いや、むしろその方がよかった。タイトルからもわかる通り、本作の主人公はラーメンではありません。紛れもなくラーメンを通して、一人の「山岸一雄」という男の生き様を描いた作品であり、これは特筆に値すると思います。

何かを貫いて生きてきた男の人生はこれほどにも美しい。僕は、「人生」とは「人の生き様」と思ってます。それをより再確認できた作品でもありました。

リストラされてラーメンの「ラ」の字も知らない男を弟子にしては励ます。
弟子に制限をつけない。
先に他界した最愛の妻を常に想い続けている。
何度も涙が出そうになりました。この山岸さんの「優しさ」が仇となり、「大勝軒」の商標登録もしていなかったことから、わずか数ヶ月しかいなかった弟子たちが全国各地に「大勝軒」と名乗る店舗を開いてしまいます。その看板で年商5億を叩き出している弟子のインタビューもありましたが、正直歯がゆかったです。師匠の山岸さんを踏み台にしているように見えたからです。このように、一口に弟子といってもやはり恩を仇で返すような人もいるということが悲しいところです。もっとも、この方はラストシーンで挽回をします。詳しいところはわかりませんが。

今作が出来た時は、山岸さんはご存命でしたが、残念ながら2015年に他界されています。それを知ってこれを鑑賞するとまた感慨深いものがあります。つまり、山岸さんの人生とは何だったのか?という大きな問いを抱いたまま鑑賞することが出来ます。こうなれば、もうそこいらのドキュメンタリー映画では歯が立たない。「東池袋大勝軒」という伝説のラーメン屋の凄さがわかっただけでなく、人生とは?というものも見事に映し出しています。

間違いなく「東池袋大勝軒」のファンであれば思い入れのある作品でしょうし、「ラーメンのドキュメンタリーに少し興味がある。」という人から見ても目からウロコでしょう。世の中にはこんな人生を全うした人間もいる。人生の教科書のような映画といったのはその為です。手段や過程はともあれ、僕も悔いのない素晴らしい人生を送っていきたいと思いました。

それにしても、鑑賞後、半端なくラーメンを食べたくなります(笑)
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