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イノセント15のemilyのレビュー・感想・評価

イノセント15(2015年製作の映画)
3.9
15歳の少年銀は父親がゲイであることを知る。一方同じ15歳の少女成美は、大好きなバレエも辞め心の行き場をなくしていた。母親から売春を強要され、虐待を受けている。成美は父親の元へ逃げることにするが、銀も一緒に行くと言い出し、二人は東京へ向かう。 

 肝心な部分、物事のその先を敢えて見せない。淡々と普遍的なテーマとして同性愛や虐待などの社会問題をさらりと盛り込み、その狭間にいる15歳という、大人でも子供でもない、一番微妙な年齢の二人の無垢で無知な世界の中にしっかりと冷却な目線で描く。それは18歳なら何か自分たちで行動することができたのかもしれない。しかし15歳の彼らの思考回路では、何かしたくてもできるほど大人ではない。

 誰かを愛したいけど、好きになりたいけど、それが何なのか分からない。しかし銀はいう「自分のことも好きじゃないのに」成美と過ごす時間の末、銀からこぼれる言葉に確実な成長を見る。まだ子供だけどその境界線をしっかり超えようとしてる。誰かを大切に思う気持ちに気づき始めているのだ。
成美もまた「これからセックス」するの。と性に芽生え始める絶妙な年齢の中、ほんのり女を匂わせたり、目の奥に潜む強さと、それでも何もできない歯がゆさを等身大の演技で見せてくれる。

 何とも絶妙かつ繊細な心理状況を、自然の背景の中に客観的なのに、どこか優しい、その先にある希望をしっかり見据えているような目線で描き、どうしようも無さの中に、その中でもがく彼らの中に、確実に見える一筋の光を救い上げることができる。

 自転車で走る二人。
 バイクで走る二人。
 青春真っ只中の葛藤を振り払うように、ただ二人乗りで走る。
 言葉ではなく、そこにお互いがいるということ。

それが愛なのかは分かるはずもない。そんなもの大人になってもわからないのだから。それでも何とかしたい、前向きたい。お互いの存在が何か言葉ではなく、そこにいるただそれだけで、ほんの少し背中を押してくれたりする。バイクのエンジンがかからない。重いバイクを起こせない。それは15歳という無知でまだまだ子供で、何かしたくても何もできない虚しさが音となって響いてるようだ。しかしそのエンジンがかかった時、何もできない中にちゃんと希望を植え付けるのだ。

 銀と成美その成長の過程は成美の方がほんの少し先を行ってる。誰かを好きになり、その苦しさをちゃんと感じ、銀との距離感もしっかり彼女は感じ取っている。同じように成長していても、女の子の方が一歩先をいくその絶妙な距離感が徐々に徐々に開いていく感じも、また溶け込むように繊細に感じることができ、取り囲む環境が苦しければ苦しいほど、人はどんどん大人に成長していくのも感じる。

 苦しみもがくこと、何とかしたく、誰かのために何かをしたいと思うこと。今はその気持ちが行動より大きくなってしまうが、そのどうしようもない空虚を感じることで人は大人に成長していく。ただ諦めず、なんとか前を向いて、だれかのために何かをしたいと思うけがれない気持ちは、いくつになっても持ち続ける必要がある。あの頃のひりひりした15の頃、ばかみたいにがむしゃらで、周りなんて見えなかった。でもまっすぐで、あきらめない気持ちがあった。あの頃の気持ちが鳴り響くエンジン音と重なり、無償に走り出したくなる。あの頃見てた海や夕日が今日はやたらと大きく美しく見える。
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