マーフィー

つむぐもののマーフィーのネタバレレビュー・内容・結末

つむぐもの(2016年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

2022/11/08
「介護の日」企画 無料オンライン上映会にて観賞。

介護される者の気持ちや介護する側の気持ち、「介護職」の葛藤、反日・反韓感情まで
介護の映画とだけ括ると少し勿体無いぐらい
考えることの多い内容でした。

福祉は
ふだんの
くらしの
しあわせ
とは上手くいったもので、
恥ずかしながら業界いるにも関わらず全然知らなかった。

介護の陰の部分にも目を向けてるところは良い。
そして吉岡里帆が普通に存在してるのがめちゃくちゃ癒し(笑)。
自分で「いくら後悔しても遅い」と言いながら自分の矛盾に気づくところ、すごい演技だと思う。

演出面では、
ヨナが日本に来たばかりのシーン、ヨナから見た日本の雰囲気怖すぎる。
ヨナの緊張と不安が伝わってくる。素晴らしい。


以下、主人公ヨナと剛生の関係についてと、
涼香をはじめとした介護士を通して描かれる介護現場について、感想と考察。

ヨナは元々腐ってたけど、本来は愛のある優しい人であることが剛生との関わりで早いうちから出ているのが良い。
後半は肩にハマらない視点で、セオリー無視ではあるけど本来の優しさが出ているシーンが沢山あって、
剛生との距離が縮むにつれて愛が溢れているのが愛おしい。

ヨナの日本語の上達が早く、剛生への関わりも積極的になっていく、
剛生のヨナへの距離も、ちょっとしか縮まってないように見えて、実は心を開いている
この塩梅も愛おしい。

下の世話をしてもらうこと、
介護を受ける者にとって尊厳に大きく関わる出来事だと思う。
施設では当たり前に起きる光景だけど、
本当は究極に心を開かないと他人に下の世話してもらうなんて耐えられないはず。
その線を超えていけたヨナ。ここから更に2人の絆が深まったと思う。

「人間、互いを嫌い合うっちゅうのは、ほとんど誤解みたいなもんや」
初めは対面で食事をしていた2人が、やがて同じ方向を向いて食事をし、しまいには酒を酌み交わす。
食事シーンでも2人の距離の変化が上手く表現されていたと思う。

最後はお互いがお互いの幸せを祈って、剛生は一度ヨナを遠ざけようとするし、ヨナは剛生の声を聞こうとする。
血縁も国境も言葉も超えた愛がよく伝わる。


ヨナと剛生の絆が愛おしい一方で、
介護士や福祉の専門職にとっては葛藤の強い内容とも言えると思う。

ベテラン介護士、一場面だけでお局様感しっかり出してるところ、このヤダみが素晴らしい演技だと思った。こういう人いる。

介護士たちの「我慢してくださいよ。仕方ないんですから」
これは絶対に言っちゃだめ。その先の虐待もアウト。
でも専門性を磨き、常に自分を見つめる姿勢が備わっていないと、これぐらいの精神状態に陥るぐらいのストレスがあるのも事実だと思う。

上記2点、物語の中でヨナとの対比として分かりやすくする必要があるからか、あからさま過ぎるとは思う。
ここまでやられると介護士の大変さだけじゃなくて変な勘違いをされる可能性があるかもしれないので、現場で働く介護職は否定すべきであると思うが、
残念ながらこんな状態になっている現場も少数あるのではないか。


ヨナの寄り添い方と介護士について、
ヨナほど自由に枠を飛び越えて利用者の「ふだんのくらしのしあわせ」を実現することは、介護士にはできない。
それは一見すると職業倫理やプロゆえの専門性によるものでもあると言えるかもしれない。
ただそのせいで本当の意味で利用者の声を聞くことができなくなるのは本末転倒。
リスク管理とQOLの狭間で常に葛藤していることこそが専門性の高さだと思う。
その葛藤がないなら、支援の方針がどちらに傾いたとしても専門性が低いのではないだろうか。
虐待は専門性の否定である。

きっと涼香はヨナが簡単にその葛藤を超えてしまうことが、職業倫理的には許せない一方で、羨ましかったのだろう。
そして価値観を大きく揺さぶられ、その真面目な性格から大きな葛藤を経験して、専門職としての自分を見つめ直したのだろうと思う。



最後に作品として気になった部分を。

そもそもワーキングホリデーで仕事内容偽って連れてくるとか酷すぎる。
ワーキングホリデーってこんなんなの?
これでは日本クソ過ぎ。

序盤、日本語だけ訳して韓国語訳さないのなんなの?通訳が一方的でひでえ。

序盤の上記2点、色々これからの展開のためにヨナの気持ちを落としてから始める必要があるのかもしれないけど、ちょっと酷くないかね...?

伝わらない中でも伝わること(「それやない」と「それや」が何となくわかるとこ、「その部屋には入るな」という新ルールが普通に伝わるとこなど)の違和感が若干強い。
その時点での会話の成立しなさからはそれが伝わるのは難しそう。
バイブスで何とかなるレベルではないと思う。


韓国語教本、どうやって買ったのか問題。
常にヨナがいるか涼香がヘルパーに入っているかの生活で、ヨナが知らないとなると涼香のいる時かもしれないが、
それでは涼香が剛生とヨナの絆を早い段階で知ることになり、涼香の先の行動に影響があったはず。
他の人に内緒で買ってくるように頼んだのかね。


そんな感じですかね!
映画として大袈裟なところはあるものの、考えさせられることの多い作品でした。
吉岡里帆可愛かったです。
マーフィー

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